音楽活動を中心としながらも、イラスト、エッセイなども自身の活動の軸として活躍しているアーティスト・SETA。彼女は渋谷の街の中で行うフリーライブ「うたのカレンダー」企画をギタリスト・佐橋佳幸と共に実施しており、4月30日(土)には1周年記念ライブが開催される。そこで今回は、本イベントについてを中心に、話を聞いた。彼女の活動の原点や現在の活動について、最近リリースした楽曲についてなど幅広く話を聞いているので、是非最後まで読んでほしい。

 

ずっと教室のすみっこにいた人間なので、メインストリームにすごく憧れはあるんだけど…

 

──SETAさんがギタリスト・佐橋佳幸さんと一緒に、渋谷の街の中で毎月行ってきたフリーライブ「うたのカレンダー」企画が今年4月に1周年を迎えますね。改めてこの「うたのカレンダー」とは、どういう主旨で始まったものなのでしょうか?

 

コロナ禍になるまでは私もライブハウスでライブをしていたんですが、いきなりライブもできなくなってしまって。特に私の場合は緊急事態宣言と共にメジャーデビューをしたので、やるはずだったものが、すべてできなくなってしまいました。そんな中、私たちも他の方たちと同じようにオンラインライブで何ができるかなって挑戦する中で、「やっぱりライブや音楽は生がいいよね」って佐橋さんとお話していたんです。そんな時に、「風がある場所だとコロナ禍でもライブができる」という話を受けて、外だったら生でライブができるんじゃないかなっていうことで、以前からイラスト展などでお世話になっていた皆さんにご相談したところ、快く場所を貸していただけたので始められたっていう感じです。

 

──実際にお二人で渋谷の路上に立ってみていかがでしたか?

 

それまで人前で歌いたいけど歌えない期間を過ごしていたので、純粋に嬉しかったですね。私自身、数年ぶりの路上ライブだったし、佐橋さんは59歳にして初の路上ライブデビューを果たされまして(笑)、そういった意味でもすごく新鮮でした。自分の曲もたくさんあるわけではないので、歩いている人が立ち止まってくれるよう季節に合った名曲を「うたのカレンダー」という名前で毎月やろうということになり、カバー曲を中心にお届けしています。音響は、電池で使える路上ライブ用のアンプ内蔵スピーカーにしたり、一つ一つ相談しながら工夫していく感じがすごく楽しいです。

 

──音楽はもちろん、お二人が放つ空気感も癒されます。ライブも拝見しましたが、どちらかというとSETAさんの方がツッコミ係なんですね(笑)。

 

放っておくとずっとしゃべってるし、ずっとボケるんですよ、佐橋さんが(笑)。だから大変なんですよね(笑)。そばで見ていて、佐橋さんは本当にライブの方なんだなと思いました。お客さんの反応によってプレーが変わる方だし、私のコンディションにも共鳴してくださるんですよ。そういった意味で、佐橋さんも私と一緒に企んで、一緒に楽しんでくれているなっていう感じがしています。

 

──カバー曲のチョイスはお二人でされているのですか?

 

私からも楽曲を提案することがあるんですが、基本的には佐橋さんやスタッフさんが、私が知らないような昔の名曲などを見つけてきてくれます。“こんな曲が何十年も前にあったんだ、素晴らしいな”とか、汽車が走っている時代の歌だと、“この時代は携帯電話もなかったんだろうな”とか想像しながら歌うんですけど、当時オリジナルの方の歌を聴いていた、私よりも年上の方たちが「SETAちゃんが歌うと違う感じで聴こえて、すごく感動した」とか、そういうふうに言っていただけると、すごく励みになります。

 

──この一年間活動してきた中で、特に印象に残っている場所や出来事はありますか?

 

とにかく路上なので、暑さと寒さに悩まされることが多いんですよ(笑)。場所で印象に残っているのは、最初、夏に渋谷フクラスのルーフトップレストランでやったんですけど、暑さの中、佐橋さんもご高齢ですし(笑)、お互い「命懸けだね」なんて冗談を言いながらライブをしたのが思い出です(笑)。あと、冬には渋谷駅構内の地下でもやらせてもらったんですけど、地下とはいえその日はかなり寒くて。佐橋さんの指がかじかんじゃったり、私も喉が締まっちゃったりしながらやった記憶があります。カフェも駅も共通していたのは、私たちのライブが目的でその場所に来ているわけじゃない人たちがたくさんいる場所だったので、すごく路上ライブしているな、っていう実感が強かったんです。その2カ所は、特に思い出深い場所です。

 

SETA01

うたのカレンダー vol.1 @東急プラザ17階 CÉ LA VI TOKYO 20210411

 

SETA02

うたのカレンダー Vol.12 @渋谷駅東口地下広場20211223

 

──4月30日(土)に「うたのカレンダー」1周年記念ライブが開催されます。どんなライブにしたいと思っていますか?

 

まだ曲は決めていないんですけど、久しぶりの有観客で行なおうとしているので、1周年だからと肩肘張るのではなく、有観客だからこそできる内容にできたらいいなと思っています。

 

──SETAさんはイラストも描かれていて、渋谷で「ヨコガオ展」という展示を開催されたこともあるんですよね。

 

そうなんです。たまたま私のインスタを見た渋谷の街を盛り上げる活動されている方から「みんなマスクして下を向くようになってしまったけど、アートの力で街を明るくする企画が何かできないですかね?」っていうお話をいただいたのがきっかけで。私はそもそもイラストレーターでもないし画力もない中で、何かできることはないかなと考えた時に、横顔だったら私のスキルでも描けるし、何より眼差しには物語が生まれるなと思っていて、それを表現できたらなと思いました。私はかなり人見知りなので、まっすぐに人の目を見ることが得意ではないんです。だから、人の横顔を見ていることが結構多いなと思っていて。マスクをするようになって、鼻から上の情報しかなくなった今の時代に、横顔を描くことで、その人の感情や今の気分を表せるんじゃないかなと思ったんです。

 

渋谷「ヨコガオ展」でのSETA

 

──確かに、SETAさんの描かれた横顔からは、眼差しの先にあるストーリーが浮かんでくる気がします。そんなSETAさんが描いた絵を使った文通カードが、4月27日(水)にレコチョクの提供するソリューション・murketでオープンしたストア「setanchi」で、NFTとして販売されます。これを購入すると、SETAさんと文通ができるという企画だそうで。

 

コロナになるまでは家から出たくないし、人となるべく関わりたくなかったんですよ(笑)。でも、コロナ禍になって「家にいなさい」って言われて、逆に外に出たいとか、人に会いたいっていう気持ちが強くなって。昨年の7月から毎月20日に曲を出しているので、アウトプットするばかりになってしまっていて、インプットって人からの会話から得られることが多かったんだなっていうことに改めて気づいたんです。そんな中で、私を応援してくれている方たちは私に興味を持ってくれていて、何かしら私に共感してくれて、私に視線を向けてくれている。ということは、私も共感できるところが多いかもしれないなと思って、もっと関わってみたいな、と思ったんです。その時にどうやったらその人のことをもうちょっと近くに感じられるんだろう?って考えた時に、文通っていいなって思ったんです。

 

──SNSが発達しているこの時代に、文通っていいですね。

 

熱を感じたいですよね。「うたのカレンダー」も生の歌を届けたいというところから始まって、結局こういう時代になると戻っていくというか、 “生”が素晴らしいよね、って思うんだなあと、ひしひしと感じています。

 

──SETAさんのルーツ的なことも聞かせてください。何がきっかけで音楽を始められたのですか?

 

もともと家が厳しくて、雑誌とか占いとか、テレビ、ラジオ、ゲームは触ったことがないし、禁止だったんですよ。そういうことになると、欲しいものは自分で作るみたいな流れになっていくんですよね。音楽は、母が好きな小田和正さんと、父が好きなクラシックしか基本聴けなかったので、何か自分が楽しくなるような音楽を聴きたいなと思ったら、気分が楽しくなるような音楽を口ずさむしかなかったんですよ。それがたぶん私の作曲のスタートだったのかなと思います。お恥ずかしながらいまだにコードもあまり知らないですし、曲の作り方を学んでいないので、今も鼻歌で作って、それを佐橋さんに送ってコードをつけてもらって、編曲していただくっていう作り方をしています。だから、子供の時から同じことをやっているという感じですね(笑)。

 

──デビューのきっかけは?

 

高校時代に恋愛をしたんです。それが初恋だったんですが、失恋してしまって。その失恋の勢いでオーディションを受けたのが、音楽業界に入ったきっかけです。

 

──なんと(笑)。それほどまでに何かに刻みたくなるような失恋だったんですか?

 

初恋ってだいたいバカになりますよね(笑)。当時は音楽を仕事にしようとはまったく思ってなくて、趣味として14歳ぐらいから曲を作るようになっていたんですが、彼と出会ってもう溺れるように好きになっちゃって、彼に向けてたくさん曲を書いて、それをプレゼントしていたんです。だけど彼とお別れする時に、“もう歌う必要がないな”と思って。「曲を作る理由がなくなっちゃったから、もういいや」って言ったら、彼に「いや、歌うのだけはやめないで」って言われて。歌うのをやめないでいるためには、仕事にしないといけないんじゃないかなってバカな状態なりに思ったんです。普段だったら厳しい親なので、芸能界なんて絶対にダメだったと思うんですけど、失恋のショックですごい痩せちゃっていたので、“一回ぐらいオーディションを受けさせないとグレるんじゃないの?”って思われていたっぽくて(笑)。それで、応募したところ、とある会社さんからご連絡いただけてっていう感じの始まりです。

 

──失恋が大きなターニングポイントになりましたね。昨年の7月から毎月1曲新曲を配信リリースされているとのことで、直近の「15センチの花束」や「30歳までひとりだったら」はもちろんですが、私は、2月にリリースした「さくら前夜」の時間を逆戻しにするMVも印象的でした。

 

私も含めて、コロナ禍になってからみんなが一斉に言い始めたのが、「また◯◯しようね」みたいな、戻ることに向けた発言だったように思うんですね。でも、体感的にもう完全にもとには戻らないだろうなってみんななんとなく思っているじゃないですか。最近は、あの頃に戻る必要があるのかしら?って思い始めていたりして。もちろん今のままでは嫌ですけど、マスクが外せるようになったとして、あの頃の人たちとまた会ったり、遊んだり、飲み会に行くか?っていったらちょっと違うだろうな、と思っていて。この2年間も止まっていたわけじゃなくて、時間は進んでいたから、皆いろんなものが変わっていると思うんです。だからこの後私たちがすることって、巻き戻すことではなくて、前に進むことなんじゃないかなと思って。

で、私は最初に言ったように、メジャーデビューするぞ!と思ったら、コロナ禍になって外に出られなくなって。悔しい思いで見上げた桜が印象に残っていたんです。桜を見ると私と同じように緊急事態宣言が出た時のことを思い出す人もいるんじゃないかなって思って。だから、桜を見ると私たちはあの時やりたかったけど諦めたこととか、前に進んでいるんだということとか、いろんなことを思い出すな、と思って書いた曲です。MVは高校時代の後輩の佐藤友理さんと作ったもので、家から出ないで友達とも会えていなかった少年が、最後友達に会いに行って笑顔になるっていう、ハッピーエンド系のストーリーにしたかったんです。

 

♪SETA「さくら前夜 」(Official Music Video)

 

 

──確かにラストの、少年が笑顔になって前に歩き進むシーンがとても印象的でした。一方で、どこか、後ろ向きな印象も受けたのですが。

 

それはたぶん、私の作風がそうなんですよね(笑)。私自身はすごく暗いし、ずっと教室のすみっこにいた人間なので、メインストリームにすごく憧れはあるんだけど、自分なんて無理だと思っているマインドの人間で。曲を書く時にいつも気にしているのが、自分みたいに教室のすみっこにいた人たちの背中をちょっと押すって、どうやったらいいんだろう?ってことなんです。私も「頑張れ」って言われたら、「頑張ってるし」って思うような人だし、そういう人たちって、きっとたくさんいるじゃないですか。そういう人たちに向けて、その日の気分によってサプリメント的な感じで、ちょっと前向きになる、ちょっと気分がよくなるようにって思って作っています。だから、日によってすごく暗い曲に聴こえたり、日によって明るい曲に聴こえたりするんだと思います。

 

──納得しました。4月20日(水)にリリースした「30歳までひとりだったら」は、川崎鷹也さんが作曲とのことですが、どんな楽曲になりましたか?

 

私は4月30日(土)に29歳になるんですけど、周りは結婚していたり、お子さんが産まれていたり、結婚してない友達も「私は結婚とか向いてないし」って言ってたくせに、急に焦り始めていたりして、この歳特有の“なんとなく結婚しないとまずいのかな?”みたいな不穏な空気感の真っ只中にいるんですよ。そんな中で、一線は超えてないんだけど友達以上の感情を持っている異性っているよねっていう、そういう男女間のずるさを歌いたいなと思って。“30歳になっても一人だったら、うちら結婚するしかないんじゃない?”って、本当にするわけじゃないのに、何のためにあんなこと言ってたんだろう?って思うような、そんな男女関係ってあるよなって。私と同年代の人は人ごとのようには聴けないかもしれないですけど、人生の先輩である女性たちにも、「あー、わかるわかる」って言ってもらえるような、そんな曲に仕上がっているかなと思います。

 

──今日のお話で、SETAさんのいろんな面について伺えたと思いますが、まだ知られていない意外な一面はありますか?

 

それはもう、ネガティブで自尊心が底辺だっていうところじゃないですかね。私の顔の作りだったり、声も明るいし、嫌われたくないっていう一心でよく笑ってるので、明るい人だと思われることが多いんですよ。だけど、めちゃくちゃネガティブで自尊心が低い人間なので、“そんなに暗かったの?”って驚かれるところがあると思います。

 

──ありがとうございました。では、最後にファンのみなさんにメッセージをお願い致します。

 

こんな私ではございますが、これからも私に共感してくださる方は応援してくださると嬉しく思います。コロナ禍という期間は、みなさんにすごく興味を抱く時間だったし、やっぱり生のライブっていいよなということとか、私は人見知りなのに人と関わりたいっていう面倒くさい矛盾を抱えた人間なんだなっていうことをひしひしと感じたので、こんな面倒くさい私ですが、関わっていただけたら嬉しく思います。よろしくお願いします。

 

文:大窪由香

 

▼SETAの楽曲はこちらから

レコチョク:https://recochoku.jp/artist/2001248647/

TOWER RECORDS MUSIC:https://music.tower.jp/artist/detail/2001248647

dヒッツ:https://dhits.docomo.ne.jp/artist/2001248647

 

▼「うたのカレンダー」企画でカバーした楽曲集

TOWER RECORDS MUSIC:https://music.tower.jp/playlist/detail/2000002067

dヒッツ:https://dhits.docomo.ne.jp/program/10040459

 

▼setanchi

SETA初の購入者とのやり取りを行うイベント付NFT商品となる「文通カード」を10種類限定で発売!

 https://setanchi.com/

販売期間:2022年4月27日(水)12:00~

 

【「うたのカレンダー」1周年記念ライブ 詳細】

主催:shibuya うたのカレンダー運営委員会

場所:イケシブ1階イベントステージ:イケシブLIVES

日時:2022年4月30日(土)13:00〜14:00 入場無料

出演者:SETA、佐橋佳幸、仲田圭佑(Soar)

https://lit.link/utanocalendar

  • SETA

    SETA

    1993年岡山県生まれ、教育学部美術科在学中。
    後に渋谷のレーベル創業メンバーと出会い、本格的に音楽活動を開始。 現在は、イラストやエッセイの執筆も積極的に展開中。