みなさんの目先の楽しみになるように、私は歌っていきたいと思います
──3曲目の「1LDK」は、この2人はどうして別れたんだろうなと考えながら聴きました。
そうですか(笑)。この曲も比較的新しい曲で。骨組みみたいなものは数年前からあったんですが、完成しないまま頭の中にあった曲なんです。
──“少し不安を住まわせて”というワードが何度か出てきますが、最後の4行を読むと全然“少しの不安”じゃないんですよね。
その時にはたいしたことないと思っていたことが、後々になって考えてみたらすごく大きかったっていうことがあると思うんですけど、この曲の主人公もまさに同じような状態で。その時は“たぶんこれでいいんだ。”と思っていたんだけど、終わってみたら、“あの時すごく不安だったな”とか“すごく嫌な思いをしたな”とか、当時見えてなかったことが見えてくる。その小さな不安みたいなものを、狭いのか広いのかわからない自分の心の部屋の中に閉じ込めている、ということを作品に起こしたかったんです。
──なるほど。このトラックはクロダセイイチさんですね。
クロダさんはずっと一緒にお仕事をしたいなと思っていた方で。どこか影があるところが、私と似ているなと勝手に思っていて。この曲はまさに影の部分と光の部分の割合が、クロダさんにピッタリだなと思ったのでお願いしました。曲を送ったところ、クロダさんの方からも「私の得意分野の曲です」とおっしゃっていただいて。「そうですよね、わかってました」っていう感じで依頼させていただきました(笑)。
──イントロに入っている足音や、曲中に入るドアを閉める音が、ものすごく楽曲に奥行きをつけていますよね。
ストーリーを感じますよね。私も初めて聴いた時に鳥肌が立ちました。この曲は唯一クロダさんと直接お会いして、お互いの恋愛観みたいなものを話し合ったりしたんですよ。なので、ゆきみという人間から滲み出ている何かを感じ取って表現してくださったみたいです。
──そして4曲目の「普通の人間」。
この曲はバンドと並行してソロをやり始めた頃にライブでもやっていた曲なので、数年前にはあった曲なんですけど、当時から少し構成を変えたり歌詞もちょっと増やしていて、今の私が反映された状態で作品になっています。
──そうですか。これも私の勝手な深読みですが、歌詞の中に他の3曲とリンクする部分が出てくるんですよ。“誰でも似合うこのスカートが〜”のところは「ミス・ドレスコード」、“アイスクリーム”というワードも出てくるし、何度も出てくる“今日は空が青い”というところは、「1LDK」の“夕焼け色”との対比かなと。
ほんとだ!でも、全然意図していないところなんですよ(笑)。この「普通の人間」は、そのまんま私の歌なんですよ。そして、他の3曲も私の中から出ているので、やっぱり私の一部分なんですよね。だからこの曲から私の一部分が散らばっていったのかもしれない(笑)。
──それを聞くと納得です(笑)。ということは、ゆきみさんはご自身のことを「普通の人間」だと思っているんですか?
私は自分が平凡だなと思うことを「普通コンプレックス」と勝手に呼んでいて。私はずっと「普通コンプレックス」を抱きながら生きてきた人間だと思っていて、それとようやく向き合った時の曲です。私と向き合った時にできた曲なので、私自身と言っても過言ではありません(笑)。
──向き合うことでコンプレックスは昇華されましたか?
しましたね。曲でなくてもいいのかもしれないですけど、モヤモヤとしていたことを言葉にすると、腑に落ちることってたくさんあって。誰もが自分が基準になるので、自分は「普通だ」と思うのかもしれないけれど、そういう普通なところに嫌気がさしたり、自分のことをつまらないなと思うことってあるじゃないですか。そんな中で、こういうものに出会えた、とか、もともと出会っていたものに対して特別感を感じたりした瞬間に、「自分のままで良かった」と思えたりする。そう思えた瞬間がこの曲が生まれた瞬間であり、私の「普通コンプレックス」に対して“これで良かった”と肯定できた瞬間でもありました。
──トラックはshushuさんですね。
shushuさんも昔から知っていて、彼のギターもすごく好きで。この曲は私そのものだったので、あまりきらびやかな派手なものにはしたくなくて、できる限りギター一本で、あと私のピアノも入っているんですけど、それを基軸に作りたいと思ったんです。ギターをメインにおいて作ってくださる方がいいなと思った時に、彼にお願いしようと。この曲はとにかく引き算をして、いろんなものをとっぱらって、今のバランスに到達したという感じです。彼と一緒に試行錯誤しながら作りました。
──そんな4曲が詰まった今作に「ミス・ファンタジア」というタイトルをつけたのは、どういった想いからですか?
前作のタイトルにも“オーバーチュア”というクラシック用語が入っていたんですけど、この“ファンタジア”もクラシック用語で幻想曲っていう意味があって。ソナタとかノクターンとかいろんな楽曲の形式がある中で、幻想曲は比較的自由な構想をもって作られる曲なんです。女性が自由に、何かの型や枠にはめられることなく生きていく、というのが、このタイトルに込めたかったイメージです。
──そのイメージはジャケットにも反映されていますね。
このジャケットは写真家の安藤未優さんと一緒に作ったんですけど、未優ちゃんにも今回の作品は“女性はこうだ”っていう固定概念は取っ払ってほしいという依頼をしたんです。難しい要望だったと思うんですけど、それを彼女なりに考えてくれて。床に置いてある靴の向きだったり、蝶々がどういうふうに飛び立つのがいいのかとか、細かいところまでこだわって形にしてくれました。

2nd DEMO『ミス・ファンタジア』ジャケット写真
──本格的にソロ活動を開始して約1年経ちましたが、何か心境の変化などはありますか?
一作目に関してはクラウドファンディングという形があったので、自分の中で期限が設けられていたんですが、今作を作る時はそういうものが何もなくて。何も課されていない状態というのを初めて経験した時に、私は心底作品が作りたいんだ、まだまだ湧き上がるエネルギーが自分の中にあるんだ、ということを実感したんです。締め切りがなくても手に取ってしまうものって、たぶん自分にとってなくてはいけないものだと思うんです。食べることや寝ることと同じで、たぶん自分が生きる上ですごく重要なこと。それが私の場合、ちゃんと音楽なんだ、歌うことなんだと改めて知ることができました。
──そんなゆきみさんの素顔についても教えて頂きたいのですが、「実は〇〇なんです」ということはありますか?
ファンの方の中にはよく知っている方もいると思うんですけど、お酒が好きです(笑)。友達と飲みに行くのはもちろんですが、家で一人で飲むのも好きなんです。冷蔵庫にはビールが必ず冷えていて、箱買いもします。最近は焼酎の魅力にはまってしまいました。日本酒で有名な獺祭が焼酎も作っていて、それを飲んだ時に感動してしまいました。
──では、これから挑戦してみたいことはどんなことですか?
すでに私の中では次の作品のことを考えていて。一作目はみなさんのお力をお借りして作らせていただいて、二作目は私の創作意欲が見えるような作品を作ったので、三作目は聴いてくれる方はもちろん、制作に関しても一緒にクリエイトしてくださる方たちを巻き込んで、大きな渦を作りたいなと思っています。それを形にしようと、イメージを膨らませているところです。
──それでは、新譜を楽しみにされているみなさんにメッセージをお願いします。
今作は自分と向き合って作ったものですが、とはいえ聴いてくださる方がいなかったら私は曲を作れなかったと思うんです。二作目を出すと言った時に、「待っていたよ」と言ってくださった方たちが私の中で心の支柱になっていて、私が私らしく生きるための一番の要素になっていると思います。今はこんなご時世ですけど、「この楽しみがあるからこの日まで頑張ろう」とか、「明日会社に行くのは辛いけど、これがあるから頑張ってみよう」とか、みなさんの目先の楽しみになるように、私は歌っていきたいと思います。そして、今後の私の行き先を楽しみにしてもらえるように、活動していこうと思っています。
文:大窪由香
写真:平野哲郎
▼2nd DEMO『ミス・ファンタジア』はこちらから
レコチョク:https://recochoku.jp/album/A2002206085/album
dヒッツ:https://dhits.docomo.ne.jp/artist/2001330524
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