1stミニアルバム『TRAD』の5曲すべてに、僕らの新しい生き様が詰まっているような気がしています

1stミニアルバム『TRAD』ジャケット写真
──では、1stミニアルバム『TRAD』について伺いたいと思います。まずはリード曲の「Take You Higher」を最初に聴かれた時は、どんな印象を受けましたか?
近藤:「むずっ!」、それに尽きた(笑)。
小野:アハハハハハ。ほんとに、誰でもないR・O・Nさんらしい唯一無二の楽曲だなと思いましたね。だからこそ難しかったんですけど。R・O・Nさんの世界を構築してほしくて、作詞のテーマも、あまり多くの言葉はお渡ししなかったんです。“未来に進む希望”であったり、“新しい世界を切り開く”っていうイメージを入れてほしいっていうことだけをお伝えして、あとはR・O・Nさんに自由に作っていただきました。
──“未来に進む希望”や“新しい世界を切り開く”イメージを入れたいと思われたのは、なぜですか?
小野:まさにさっき言った通り、時勢の影響が大きいですね。ちょうどこの話をしている頃って、エンターテインメントに携わっている人たちが、この先どうなるかわからなくて、みんなちょっと下を向いていた時期だったと思っていて。だとしたら、希望を歌うしかないだろうって。だって、僕らはここから新しいユニットを組むんだから、と思うと、これはもう希望しかないよなと。逆説的に言えば、僕個人は後ろを振り返りたくなかった。前だけを向いていたい、とにかく前向きな歌詞と前向きな音楽と前向きなメロディを歌いたいって思ってました。そうしたら、本当にど真ん中を射抜くような楽曲をいただけて、それが嬉しかったですね。
近藤:今回は携わっていないんですけど、20代の頃から僕自身も作詞することが多くて。作詞をする上で昔からなにひとつブレていないものがあるんですよ。それは、顔も見たこともない、どこに住んでいるかもわからない誰かの背中を押すことができたらいいなって。ただリズムに乗せて耳障りのいい言葉を並べても歌は成立するのかもしれないけれど、僕は誰かの何かのきっかけになりたい。慰めでもいいし、背中を押すのでもいい。そういうことができたら、これ以上にない最高のことだなと、ずっと思ってやってきたんです。今回いただいた楽曲もどれもそういう感じの曲だったから、こちらとしてはもう「やるだけです」みたいな感じでしたね。
♪ TRD『Take You Higher』Music Video Short ver.
──第一印象は「むずっ!」だったとおっしゃっていましたが(笑)、実際にレコーディングで歌ってみていかがでしたか?
近藤:それですよ!ちょっと聞いてくださいよ!
小野:おお、聞かれてんだよ。まさに今インタビューされてんだよ(笑)。
──はい、ぜひ聞かせてください(笑)。
近藤:この業界に26年ぐらいいますが、初めてマイクの位置を調整してもらったんですよ。この曲は前のめりじゃないと歌えないと思って、マイクを斜めにしてもらって、前のめりな姿勢で歌詞を持って歌いました。普通は歌詞も譜面に置くじゃないですか。だけど、今回は「歌詞をもって、こうやって歌いたいんです」って言って。さらに「一発できめてやるぜ!」っていうぐらいの勢いでいったんですけど、本当にもう…ギリギリの戦いを強いられたというか(笑)。さくっと録って颯爽と帰るつもりが、ものすごい被弾してボロボロになって帰るみたいな、そんな感じでした(笑)。それゆえに、新しい扉も開けたんですけどね。とにかく難しかった。キーもけっこう高くて。その頃、低めのキーの役を作ことが多かったから、さらに難しかったっていうのもあります。
小野:僕も同じく、新しい音楽へのアプローチができたなと思っています。R・O・Nさんには昔、「心霊探偵八雲」という作品でお世話になったことがあって、その時もすごくいろんなアプローチをして、ものすごく時間をかけて録ったことがあったんですよ。だから、テイクを重ねて作るのがR・O・Nさんのスタイルなんだろうなと。その時に歌い方もそうだし、独特の譜割もそうなんですけど、これまでやったことのない領域に足を踏み入れることができて、今回もまさにそんな感じだったなと。たとえば“一歩踏み出す準備はもうとっくにできてるんだろう”っていう一節があるんですけど、言葉の最初の音をあえて言わないっていう歌い方をしてるんですよ。一歩の“い”や踏み出すの“ふ”を、ほとんど言わない。母音をしっかりと発音しないんですよ。そんな歌い方をしたことがなくて、カルチャーショックとも言える出来事でした。
──言わない音があるって、英語みたいですね。
近藤:まさにそんな感じですよ。
小野:そう、洋楽だった。
近藤:僕もまったく同じで、けっこう度肝を抜かれました。「言わないスタイルね」、みたいな。
小野:僕らは声優なので、どうしても言葉を大事にしちゃうんですよ。声優業では絶対に、言わないと伝わらないと思ってるから。だけど、音楽においては言わないのもありなんだなって。だって歌詞見ればわかるからね、何を歌っているのか。…でも、歌詞を見なくても分かるように歌いたいという思いもある。
近藤:そうそう。葛藤があったよね(笑)。
──そして、今作には小野さんの「Just the Two of Us」と、近藤さんの「Baby,Can’t Let Go」、それぞれのソロ曲が入ってますね。
小野:新しいユニットのデビュー作にソロ楽曲が入るっていうのもなかなかの逆説的な試みだと思います。だからこそ、二人じゃないと歌えない曲を歌いたいと思っていて、ソロ楽曲もそういうテーマがいいなと思ったので、“Two of Us”っていうキーワードをお渡しして作ってもらったんですよ。
──「Just the Two of Us」は王道のバラードソングですね。
小野:思った以上にそうでしたね。王道のバラードだからこそ、新しい技術というか、自分の中で挑戦をしたかった。この曲では僕もマイクの位置を調整してもらったんですよ。かなり近い位置にしてもらって、ウィスパーっぽく歌ってます。これもまた声優あるあるなのかもしれないけど、腹からしっかり声を出して音圧を出したいんです。でも、この音に寄り添おうと思ったので、逆に自分の声から芯を抜いて歌ってみようと。そういう意味で、チャレンジをした曲ですよね。
♪【試聴動画】TRD/小野大輔ソロ楽曲『Just the Two of Us』Short ver.
──なるほど。だから、そばで歌ってくれているような感じがするんでしょうね。
小野:あ!そう思っていただけたら嬉しい。今気づきましたけど、狙い通りです。
近藤:いやいや、日本語がおかしいよ?(笑)
小野:“今気づきましたけど”を切ってもらえばいいでしょ。
近藤:そうはさせるか!(笑)
──この流れ、しっかり書いておきます(笑)。近藤さんの「Baby,Can’t Let Go」もミディアムな曲ではありますが、小野さん曲とはまた違う感触ですよね。
近藤:どこまで言っていいのかわからないんですけど(笑)、僕はヒップホップが好きなので、ごりごりのラップ曲をやってみたいなと思っていたんですけど、ここはやっぱり委ねてみようと、お任せしてたんですね。そうしたら「素材の素材の素材ぐらいの感じです」ってデモをいただいて、それを聴いてみたらサンバみたいな感じだったんですよ。「俺のソロ曲はサンバなの?」「歌ったことないし、どうしよう?」って不安になっちゃって(笑)。でも「ここからアレンジしてめっちゃカッコいいバラードに仕上げていくんで」って西岡さんからお返事をいただいて、実際にあがってきたものを聴いたら、ギターのアルペジオがよく効いた甘いバラードになっていて。アレンジってすごいなと思いました(笑)。
歌入れの時は、僕も芯を抜いた歌い方で甘く甘く歌おうとしてたんですけど、なんか曲調がしっくりこなかったんですよ。それで、小野くんとは逆で、等身大のストレートな感じに歌ったんです。硬さの中にもちょっと艶っぽさが出るといいなってイメージして歌ったので、小野くんとのバランスが取れて良かったなと。軟水と硬水みたいな感じでしょ(笑)。
小野:確かに僕の声はどっちかというと柔らかい感じで、近藤くんは透き通ったハイトーンだからね。硬水と軟水ってそういうことでしょ?
近藤:そうそう。クリスタルハイトーンね(笑)。
♪【試聴動画】TRD/近藤孝行ソロ楽曲『Baby, Can’t Let Go』Short ver.
──一曲目の「Vermillion Phoenix」は一曲目らしい印象強い曲ですね。
小野:はい。このミニアルバムの、ひいてはTRDの幕開けにふさわしい楽曲を作りたいと思っていて。“フェニックス”は、僕がいつかどこかで使いたいなと思っていたモチーフだったんですよ。それを近藤くんに伝えたら、B’zさんの事務所の名前にもなっている“バーミリオン”も不死鳥に関連する言葉だよね、って教えてくれて。
近藤:“フェニックス”ってけっこう聞き馴染みのあるワードだから、ちょっとひねったらいいんじゃないかなと思って。僕の好きな風水に、朱雀とか白虎とかっていうワードが出てくるんですけど、朱雀って“バーミリオンバード”って言うんですよ。それが「Vermillion Phoenix」、“燃え盛る不死鳥”って、より強い意味合いになって返ってきたんです。
小野:“フェニックス”っていうモチーフを使いたかったのは、この閉塞感のある時代から飛び立ちたかったから。どんなに打ちのめされても何度でも甦る。そういう思いを込めています。
♪【試聴動画】TRD『Vermillion Phoenix』Short ver.
──そして最後の曲が「Game Changer」。
小野:この曲は新しい楽曲だよね。一言では言い表せないぐらい、いろんな音楽が入っていて。
近藤:この楽曲の存在に一番悩んだよね(笑)。
小野:アルバムの締めになるはずの曲なんですけど、全然終わらせる気がないなっていう(笑)。イントロは激しいし、転調につぐ転調で、サビはものすごくメロディアス。この曲も希望に満ちた楽曲なんですけど、これも最初に聴いた時に度肝を抜かれちゃって。近藤くんにも、「この曲が最後で大丈夫か?」って話したぐらい(笑)。“ゲームチェンジャー”っていう言葉の意味も、最初わからなかったから調べたら、スポーツ用語だったんです。試合の途中に出場してゲームをひっくり返す。流れを変える人を“ゲームチェンジャー”って言うそうで。「この世界を変える者、救世主たり得る者」っていうことなんですよね。それを知って、一気に腑に落ちた。この曲も未来に進んでいく楽曲なんですよ。だから、また「Vermillion Phoenix」にループで戻ると、また立ち上がれるんです。よくできてるなあって、鳥肌が立つくらい感動しました。
近藤:この曲に対して僕が思ったのは、いわゆるボカロ系とか歌い手さんが歌ってる楽曲のようなテイストがあったから、若い人に寄せても刺さるんじゃないかなと思って。だからチャレンジとしてすごくいいなと思ったんです。 “ゲームチェンジャー”って、切り札っていう意味もあるので、そういう印象を受けました。
♪【試聴動画】TRD『Game Changer』Short ver.
──この最強のミニアルバムを引っ提げてTRDはメジャーデビューしますが、意気込みを聞かせてください。
近藤:まずはライブが決まったことが衝撃的でした。小野くんや、演出で入ってくれる振り付けのMASAKIさんと一緒にまたライブができるんだっていう喜びと、僕らの新しい表現をみなさんの前でライブという形で見せることができる喜びで、今から沸き上がってくるものがあります。それに向けて、まずはこのミニアルバムを手に取っていただいて、オンラインイベントも挟みつつ、ライブにも来ていただいて、みなさんと一緒にどんどん大きくしていきたいなと思っています。今すごくやる気に満ちていて、燃えています(笑)。みなさんも楽しみにしていてください。
小野:この1stミニアルバム『TRAD』の5曲すべてに、僕らの新しい生き様が詰まっているような気がしています。なので、まずは手に取っていただいて、何度も聴いていただいて、僕らがここに込めた思い、新しい世界へと進んで行きたいっていうポジティブな思いや希望を感じ取っていただけたら嬉しく思います。
▼TRD 1stミニアルバム『TRAD』はこちらから
レコチョク:http://recochoku.jp/album/A1017442691/
dヒッツ:https://dhits.docomo.ne.jp/artist/1001410014
文:大窪由香
※各記事に記載されている内容は公開時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご了承ください。
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TRD
声優・近藤孝行&小野大輔によるテクノロジック・ヴォーカルユニット。
TRD(トラッド)は、TRAD(Traditional) =伝統の、伝説の、という古来の意味ではなく、T(Takayuki) と D(Daisuke) の間に「R」=「Return、Revive、Renewal(復活、新たなるなどの様々の意)」を据えて、新たに(TRAD)ここから伝説を作っていこうという発想のもと、新しいテクノロジック・ヴォーカルユニットとしてK-POP調のEDMを駆使したデジタルサウンドと、高い歌唱力&パフォーマンスでその活動を開始する。
さらに4月よりTRDによるラジオ番組「TRDのDope Rad Talking」が放送中。