ヒグチアイが自身初のベストアルバム『樋口愛』を9月2日(水)にリリースする。本名をタイトルにするという事からも、彼女の本気度、そして全てを曝け出そうとする意気込みが伝わってくる。インディーズ時代を含む6年間の楽曲からリレコーディング曲や「八月」「東京にて」という新曲2曲も収録され、過去だけではなく未来を見据えた現在が知れるベスト盤。インタビュー後半には彼女がセレクトしたプレイリストも公開されているので、最後までチェックしてほしい。

 

 

 

ベスト盤を出したら何かが変わるのではないかという期待に賭けた感じです

 

 

 

――最近、Twitterでヒグチさんについてつぶやかれていたり、ヒグチさんを好きという声も、よく聴きますし、今、波がきている気がしています。

 

嬉しいですね。好きでいてくれる人は前からいるんですけど、それを公にしてくれる人は少なくて(笑)。ずっと思っていたのは、(好きと)言いづらい何かがあるんじゃないかなと。自分の内側にこもっている気持ち、メンタルが柔らかい部分がある事を知られたくないのかなって。

 

――そこまで分析して考えるのが、またヒグチさんらしいですね(笑)。ベスト盤リリースは多くの人に知られる絶好の機会でもありますが、ミュージシャンの方によっては、抵抗を感じる人もいるかと思います。ヒグチさんはいかがでしたか?

 

私も、その感覚は持っていました。(楽曲は)自分の子供たちだから、ベスト盤としてまとめたくないなって。

 

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――ベスト盤の話は、いつ頃から出てきたのですか?

 

去年の秋以降ですね。すっごくリアルな話をすると、(レコード会社との)契約が終わるのかなって思って(笑)。そういうことではなかったんですけどね(笑)。ベスト盤を出したら何かが変わるのではないかという期待に賭けた感じです。

 

――今回は、とても手の込んだベスト盤だと思います。

 

新曲が2曲収録されているから、そう思ってもらえるんだと思います。古い曲だけ入っているベスト盤の方がわかりやすいんでしょうけど、このベスト盤には新曲も収録されているので、わかりにくさも入っていますね。

 

 

 

ヒグチアイ「八月」

 

 

 

――いやいや、過去がまとめられただけではなくて、新曲が入っていると現在ヒグチさんが何を想っているかが伝わりますし、そこから未来へ続く感じもします。『樋口愛』というタイトルも、とても良いですね。

 

自分の本名ですからね(笑)。「ヒグチアイ」と書く時は左に払う感じが多くて気に入ってますが、漢字で「樋口愛」と書くのは昔から得意じゃなくて。口の部分がスコーンと抜けているというか(笑)。

 

――表記「樋口愛」を世の中に出す事には抵抗があったんですか?

 

まず漢字のままでステージに立つ事は出来なかったですね。本名で活動する事には、何かの歪みがあったような気がします。もともと別の名前で活動をしていたんですが、同じ名前の人が他にいたのでヒグチアイに変えたんです。高校3年生の時に地元の路上で歌って、作ったCDを売ったりしていた時は、まだ別の名前でしたから。本名に勝るものはないと思いましたが、学生時代の自分とは違う人間でいたいという気持ちもあり、ヒグチアイというカタカナの名前にしました。カタカナの方が確実に読めるし、当時はカタカナの名前や平仮名の名前が今ほど多くなかったので、何人かが出演するライブでは、パッと目に入りやすかったんです。

 

――そこまでカタカナのヒグチアイ名義にこだわっていたのに、今回、本名の漢字表記をタイトルにしたのは何故ですか?

 

自分の本名が世の中に残るのは嬉しいですけど、逃げられないという思いもあります。タイトルを褒めてもらえる事が多いんですけど、そんな風に褒めてもらえる事を予想してなかったですし、そんな事を考える事もないくらいに、このタイトルしかなかったです。

 

 

 

ヒグチアイ「備忘録」

 

 

 

――先程も新曲の話をしましたが、アルバムのラストナンバーとして収録されている「東京にて」という楽曲は、本当に強い楽曲だと思います。僕が最初に聴いたのは去年の11月のライブでしたけど、あの頃の東京と、今の東京は違うじゃないですか。昨年は東京オリンピックに希望を持って明るいムード一色に包まれていました。だからこそヒグチさんが冷静に浮足立たないで、東京という街について俯瞰的に歌っていたのが、本当に響いたんです。

 

自分が作った時の「東京にて」に時代が追いついたじゃないですけど…。最初は、もうちょっと期待感がある曲でしたし、本当はアンセムとか作りたかったのに、全然そうはならなくて。実際の私はオリンピックやワールドカップみたいなお祭りが大好きで、楽しみにもしていたんです。オリンピックのチケットも買っていたんですけど、いざ曲を作ると、こうなってしまったんですよね。

楽しい事は一瞬で終わってしまうから、その一瞬を楽しむ事は出来ますけど、楽しい時に楽しい事だけをやっている人は、時代から置いていかれると思っていて。その楽しい一瞬の時間に何が出来るかという気持ちが、私の中では強くあるからかもしれませんね。

 

 

 

ヒグチアイ「東京にて」

 

 

 

――今回のベスト盤にも収録されていますが、ヒグチさんは既に「東京」という楽曲もあります。東京という街を曲にしていく理由は何なのでしょうか?

 

自分が変われば、街も変わって見えるので、東京を曲にするのは1曲で終わりじゃないと思います。それに東京という街にずっと憧れがあって、その中で何が出来るかをずっと考えているんです。他の人より東京という同じ場所にこだわりがあるからこそ、東京を歌った曲が2曲あるのかも知れないですね。

 

 

――他のベスト盤に収録されている楽曲についても選曲理由を教えてもらえますか?

 

リード曲やライブで人気がある曲を中心に選曲をしましたが、インディーズ時代の曲で、もう1回注目してもらいたい曲も選んでいます。再レコーディングした曲は、最初の音に納得がいってなくて、もう1回録り直したい気持ちがあった曲です。

 

――今回、特典ブックレットとして、収録曲13曲と同じタイトルの短編小説が読める「小説 樋口愛」が付いてくるのも凄く良いアイデアだなと思いました。

 

言葉に慣れるきっかけになったらいいなと思ってます。小説を書くのは凄く楽しくて、今回以外でも色々書いていたんです。だけど、エッセイは書けなくて。過去の事を覚えてないというのもありますし、自分の過去の事を書いて面白いかなというのもあるんです。小説は歌詞を書く感覚に似てますし、ドラマや漫画みたいなところもあります。主人公が女の曲だったら、逆に小説では男目線から書いてみようとも思えるんですね。その感じで曲も書けたら良いのですが、それにはメロディーが足りなくて…。100歌詞を書いたとしたら、メロディーはひとつしか浮かばないんです。

 

 

――曲作りについてミュージシャンの方はよく曲先、歌詞先と言われますが、ヒグチさんは歌詞先なんですね。

 

私は本当に言葉なんですよ。歌詞だったら、なんぼでもというか!メロディーが先に浮かぶというのは意味がわからないです(笑)。普段から、あんまり音楽も聴かないですし、何の音もしない、頭の中が静かな状態でいたいんです。音は、街の雑踏ぐらいで、ちょうど良くて。

 

 

 

ヒグチアイ「前線」

 

 

 

 

 

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