アルバム『1』のリリースから10年を記念した、アナログLPのリイシュー盤【『1』LP 10th Anniversary Reissue】を9月に発売したドレスコーズ。11月1日には過去のライブ映像9作品がデジタル特典付き・各100個限定で「KING RECORDS digital」で限定販売された。この映像作品は、スマートフォンやパソコンで専用サイトにアクセスするとライブ映像やライブフォトブックなどをいつでも気軽に見ることができ、さらに、各ライブを振り返った本人の動画コメントも収録されている。本作品のリリースを記念して、志磨遼平に映像作品制作時の想いやこれまでのツアーを振り返ってもらうと同時に、自叙伝『ぼくだけはブルー』、新曲「ハッピー・トゥゲザー」についても語ってもらった。

 

 

みなさんにとっても何度も見たくなるような映像になっていればいいなと思います

 

──アルバム『1』の発売から10年が経ちました。当時の心境や、作品を振り返って感じることを教えてください。

 

10代からずっとバンドを続けてきた僕にとって『1』は初めて自分ひとりで仕上げた作品なので、非常に自分らしい、混ざりけのないものになっていると思います。この作品を完成させたことで、「自分がひとりで音楽を作るとこういうものになるんだ」というのがよくわかった気がします。

 

現在の活動につながる、作品ごとにいろんなミュージシャンとの共同制作の場としてのドレスコーズというこのスタイルが10年続いているということは、自分にはこのやり方がすごく合っているのだなと思います。

 

『1』LP 10th Anniversary Reissue

 

──その『1』に収録されている、ドレスコーズのキラーチューンである 「愛に気をつけてね」の過去のライブ映像が再編集されたスペシャルムービーも公開されています。志磨さんにとって、「愛に気をつけてね」はどんな曲ですか?

 

作曲当初は「アルバムの中のちょっと軽薄な曲」というくらいの印象だったんです。それを録っている最中に、担当ディレクターが「(楽曲の)エンディングをとにかく伸ばそう」と思いついて、どうせやるならしつこいくらいやろうということで、現在のいつ終わるかわからないエンディングになったんです。それでアルバムのラストに収録することが決まり、ライブでも必ず最後に演奏される曲となりました。

 

♪ドレスコーズ – 愛に気をつけてね “1” 10th Anniversary Special Movie

 

 

──「愛に気をつけてね」のスペシャルムービーをご覧になっていかがでしたか?

 

僕はツアーによって、バンド編成もパフォーマンスもルックスも変わっているんです。我ながら「毎回コンセプトがあるのはいいな」と思います(笑)。それがいつのものなのか、すぐにわかるので。

 

──ツアーは毎回コンセプトが異なっているということですが、今回、『“Don’t Trust Ryohei Shima” TOUR』(2015年)から『the dresscodes TOUR 2023「散花奏奏』(2023年)までライブ映像9作品がデジタル商品として「KING RECORDS digital」限定で発売されます。見どころを教えていただけますか?

 

僕は映像作品の編集作業に必ず首を突っ込んで、ディレクターと一緒に仕上げていきます。10台以上あるカメラの全ての映像を目を皿のようにして見ながら、スイッチのタイミングまで細かく相談します。それは、少年時代にさまざまなロックスターのライブビデオを擦り切れるまで見たせいです。母親から「また見てるの」と言われるくらい、毎日飽きもせずに何度もリピートして見ていたビデオの画角や照明の色、ステージで歌うロックスターの姿、そういったものを自分にトレースする感じ。自分のルーツであるあの映像に近づきたい、という執念が映像編集の原動力になっています。なので、みなさんにとっても何度も見たくなるような映像になっていればいいなと思います。

 

♪ドレスコーズ【LIVE】「襲撃」(from “the dresscodes TOUR 2023「散花奏奏」Live Blu-ray & DVD)

 

 

──本商品にはライブ映像だけでなく、好評だった装丁本や書き下ろしの短編小説のデジタル版も収録され、さらにそれぞれの作品にライブを振り返ったコメント動画や初披露となるライブフォトブックもついています。ファンの方に注目してもらいたい部分を教えてください。

 

僕はパッケージや特典のデザインにも非常に強いこだわりを持っています。「自分がファンだったらこういうものがほしい」「こんなものをコレクションしたい」というマニア心が強いせいで、同封されるブックレットなどにもいちいち仕掛けをしたくなるんです。紙幣や花びら、ラメといった作品にまつわるものを同封した立体的な特殊パッケージなんかもあるので、デジタル商品に形を変えてもなるべく発売当時の魅力が削がれないようにお願いしました。

 

コメント動画では、ツアーごとの大まかなテーマとコンセプトを軽く説明しています。たとえば、コロナ禍で開催されたライブには異様な緊張感と静けさがありましたよね。それを100年後の人が映像で見たら「えらい盛り上がってないな、客おらんのか」と思うかもしれない。そんな時代を反映したツアーの形式だったことを伝える意味も込めています。ドレスコーズの歴史を縦軸として、時代の時間軸を横軸とする。両方を加味してようやく全貌が見えてくるのかなと思います。

 

──今回、ライブ映像を見返されたなかで、特に想い出に残っているツアーや見てもらいたいステージを教えてください。

 

どれも歌っている人が一緒というだけで、まったく別のバンドの作品なので、選ぶのは難しいですが……。映像として面白そうなのは『どろぼう~dresscodes plays the dresscodes~』ですかね。

2018年に初めて演劇作品の音楽監督を務めたときに、大きなカルチャーショックを受けて。それをヒントに、僕も自分の曲を使った音楽劇をライブハウスでできないかと考えたんです。ライブでもなく演劇でもないものという、なかなか見ることのない内容なので、映像にも向いている作品かなと。選曲もよかったみたいで、ファンの方にも人気があると聞いています。

 

dresscodes_1

 

──この10年間のライブ映像をご覧になってみて、志磨さん自身の変わったところと変わらないところがあれば教えてください。

 

変わったところとしては、ライブが良くなったと思います。昔はツアーの中にどうしてもライブの出来が良い日と悪い日があって。お客さんは全公演を見ているわけではないので気づかないとしても、自己採点の低い日が必ずあった。それもバンドらしさだと思いますが、今は一貫して良いクオリティを保てるようになった気がします。

変わらないところは……ないかもしれません。僕は「これ、前もやったな」と思うところがあれば必ず変更するので。「よく見れば去年とちょっとちがう」くらいかもしれませんが、必ず少しの変化があるはずです。

 

──10月16日には新曲「ハッピー・トゥゲザー」がリリースされました。今回の楽曲制作のきっかけや特にインスピレーションを得た部分があれば教えてください。

 

きっかけは、9月に発売された自叙伝『ぼくだけはブルー』ですね。それを執筆している最中にふと、このメロディが浮かびました。でも、僕はとにかく2つのことが同時にできない性格なので、自叙伝が脱稿するのを待ってから曲の仕上げに取り掛かりました。書き上げた直後ということもあり、自叙伝のあとがきのような内容になっています。

自分の美学として、過去を振り返ることはあまり好きではないんです。過去を振り返るにはまだ若すぎると思うので。ですが、今回は自叙伝が出たばかりということもあって、今までの来し方を振り返るような曲を作ってみました。

 

ハッピー・トゥゲザー_RGB_s

 

──歌詞でポイントとなるような部分はありますか?

 

いつも歌詞を書くときは、自分の腑に落ちる言葉がポンと浮かぶまでひたすら待つんです。今作の中では「ひとりの ハネムーンは 気ままに 続く」という部分が浮かんで「なるほど」と腑に落ちました。ずっとひとりで活動を続けている僕のことを不幸だと思う人もいるかもしれませんが、僕はそれで十分幸せなんです。

 

──その部分に続く「きみの サイドシートを それとなく 空けたまんま」という歌詞も印象的でした。隣はあえて空けている、というような。

 

そうです。でも、その席を誰かに埋めてほしいわけでもない。ただなんとなくずっと空けている。そういう感じですね。

 

──新曲ともリンクする自叙伝を出版するきっかけは何だったのでしょうか?

 

昨年、とある雑誌で僕の経歴を振り返る特集※を組んでもらったんです。そのときに編集の方から「志磨くんの人生は面白いから、あらためて生い立ちから振り返る単行本を作ろう」と提案をいただいて。最初は「こっ恥ずかしいのでやめましょう」とお断りしたんですけど、「そう言わずに」とおだててくれたので、その気になって書いてみました。

 

※PUNK ROCK ISSUE”Bollocks”(No.069)[志磨遼平(ドレスコーズ)大特集 ] シンコーミュージック・エンタテインメント

 

──関係者やファンの方からの証言も入っていますが、第三者からの声を聞いていかがでしたか?

 

怒られている気分でしたね(笑)。「人の話を聞かない」とか「『わかった』って言うけどわかってない」とか(笑)。全くそのとおりなので。

 

でも、「どんなことがあっても自分の意見を曲げずにやりたいことを貫く」と良いように言ってくださる方もいたので、良くも悪くもそれが自分の特性であることはよくわかりました。「やりたいことが明確だからサポートがしやすい」と言ってくださる方もいましたし。

 

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──書籍、新曲、映像作品のデジタル版に続いて、11月からはツアー「the dresscodes TOUR 2024」が始まります。今回のツアーへの意気込みをお聞かせください。

 

珍しく、自分のことを振り返る時期を過ごしていたので、それを総括するようなツアーになるといいなと思っています。まだ煮詰めている最中なので……変わるかもしれません(笑)。

 

──どんなツアーに仕上がるのか楽しみです。最後に、今後の活動についてファンの方へメッセージをお願いします。

 

僕が今までやってきたことをデジタル映像作品や書籍にまとめたことで、「自分がどういう人でどんなことをしてきたか」がわかりやすく伝えられるようになりました。今まで散らばっていた情報がまとまったことで、僕を知ってくれたばかりの方にとっても親切なのではないかなと。自分の過去の作品にもアクセスしやすくなったので、各駅停車しかなかったところに特急が停まるようになった感覚です。ぜひたくさん見ていただければと思います。

 

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文:伊藤美咲

写真:平野哲郎

 

▼ドレスコーズ 映像作品はこちらから

■販売ストア 「KING RECORDS digital」 http://kingrecords-d.jp/artist/42316

※購入の際は「KING RECORDS digital」への会員登録(無料)が必要です

 

①“Don’t Trust Ryohei Shima” TOUR 〈完全版〉【デジタルフォトブック付き】

販売価格:2,200円(税込)

②SWEET HAPPENING 〜the dresscodes 2015 “Don’t Trust Ryohei Shima” JAPAN TOUR【デジタルフォトブック付き】

販売価格:2,200円(税込)

③公民(the dresscodes 2017 “meme”TOUR FINAL 新木場STUDIO COAST)【デジタルブック「国家」付き】

販売価格:5,500円(税込)

④どろぼう ~dresscodes plays the dresscodes~【デジタルパンフレット付き】

販売価格:5,500円(税込)

⑤ルーディエスタ/アンチクライスタ the dresscodes A.K.A. LIVE! 【デジタル特典付き】

販売価格:2,200円(税込)

⑥ID10+ TOUR【デジタルフォトブック付き】

販売価格:11,000円(税込)

⑦バイエル(変奏)【デジタルフォトブック・寄稿集付き】

販売価格:5,500円(税込)

⑧「ドレスコーズの味園ユニバース」【デジタルフォトブック・小説“ユニバース”付き】

販売価格:3,300円(税込)

⑨the dresscodes TOUR2023「散花奏奏」【デジタルフォトブック・特典付き】

販売価格:3,300円(税込)

 

【「the dresscodes TOUR 2024」】 

2024年11月3日(日)札幌cube garden 

11月4日(月祝)仙台darwin ※SOLD OUT 

11月9日(土)福岡BEAT STATION ※SOLD OUT 

11月10日(日)岡山YEBISU YA PRO 

11月16日(土)名古屋CLUB QUATTRO ※SOLD OUT 

11月17日(日)心斎橋BIGCAT ※SOLD OUT 

11月21日(木)Zepp Shinjuku(東京) ※SOLD OUT 

※各記事に記載されている内容は公開時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご了承ください。​

  • ドレスコーズ 志磨遼平

    ドレスコーズ 志磨遼平

    1982年3月6日生まれ。和歌山県和歌山市出身。
    作詞作曲家、文筆家。
    2003年「毛皮のマリーズ」結成。2006年のデビュー以後、日本のロックンロール・リバイバルを牽引する存在となるも、2011年に日本武道館公演をもって解散。翌2012年にドレスコーズを結成。2014年にメンバー全員が脱退。最新作はアルバム『式日散花』(2023年)。
    近年は楽曲提供、舞台音楽、映画音楽、俳優などの活動もおこなっている。
    ほぼ全パートを1人で制作したアルバム『1』から10周年を記念し、生い立ちから2014年までを書き下ろした自叙伝『ぼくだけはブルー』2024年9月発売。
    2023年4月より東京新聞にてコラム連載中。