シンガーソングライターとして活躍する折坂悠太。2019年に放送されたフジテレビ系ドラマ『監察医 朝顔』として「朝顔」を発表、作品と合わせて注目を集めた彼だが、3月10日(水)に待望のミニアルバム『朝顔』をリリースする。そこで今回、折坂悠太本人にインタビューを行い、今作についてはもちろんのこと、音楽ルーツや意外な一面など、幅広く話を聞いた。歌からは読み取り切れない彼の個性を、このインタビューを通して存分に楽しんでほしい。 

 

 

朝顔は夏の花だし、ドラマが最初に放送されたのも夏だったので、夏とお祭りの掛け合いみたいなイメージで作りました

 

 

──フリースクールでバンドを組んだのが、折坂さんの音楽活動の始まりだということですが、それ以前の音楽との接点はどういうところだったんでしょうか? 

 

僕の母や母の兄弟が洋楽が好きで、ニューウェーブの音楽に没頭したり、クイーンのライブにリアルタイムで行っていたような世代なんですよ。母の田舎は鳥取なんですけど、実家にはレコードがたくさんあって。鳥取の田舎を車で走りながら、そういった音楽を聴かせてくれたのが僕の音楽の原体験かなと思います。

 

──そこから、ご自身が好きになった音楽はどういうものでしたか? 

 

僕もそういう音楽を聴きつつ、親たちが知らない世代の音楽ってどんなものがあるんだろうと思った時に出会ったのがレディオヘッドです。いまだに好きですね。最初に組んだバンドではRCサクセションとか日本のバンドの音楽をやっていたんですけど、その傍らで僕の創作意欲を掻き立ててくれていたのはレディオヘッドだったなと思います。 

 

──最初のバンドではボーカルをされていたんですか? 

 

その時はドラムをやってました。周りに楽器ができる人があんまりいなくて、みんなが楽器初心者みたいな感じだったんです。僕もギターを少し触ったことがあったぐらいの感じだったんですけど、ドラムをやってみたらなんとなく叩けた感じで。 

 

──そのままドラムになったと。ボーカルを選択されなかったんですね。 

 

そうですね。ドラムは一番音が大きいので、自分の思い通りにできるかなというのもあって(笑)。だけど、だんだんそれには飽きたらず、自分で曲も作りたくなって。そこからギターをちょっと弾き始めて、簡単な曲を作るようになったんです。それをバンドに持っていって、でもそこでは僕はやっぱりドラムで、ギターは弾いてもらっていました。 

 

──自分で曲を作るようになると、それを自分で歌いたいと思うようになった、という感じですか? 

 

そうですね。だんだんそういう気持ちになっていって、そのバンドとはまた違う、自分で歌とギターをやるバンドを始めてみたりしました。 

 

──折坂さんの発声や歌い回しはかなり独特なんですが、特に民謡などを習ったりされたわけではないんですよね? 

 

はい。洋楽ばっかり聴いていて、日本の伝統的な音楽に触れることはなかったと思うんですが、同時期ぐらいに地元のお祭りに参加することが多くなって。青森のねぶたのような、小さいねぶたを自分たちで作って、それを持って練り歩くみたいなことを地元のお祭りでやっていて。その時にお祭りの高揚感とか、祭り囃子といったものにすごく惹かれていることに気づいたんです。僕の節回しみたいなものは、自分のルーツの中にあったものなのかなという感じはしますね。それで育ってきたわけではないんですけど、すごく懐かしい感覚があって。そもそもロックも元を辿ればそういったルーツに辿り着くものだと思っていて、自分は洋楽に影響を受けて音楽をやっているけど、じゃあ自分の住んでいる場所のルーツってなんなんだろうって考えた時に、そういうお祭りみたいなものに行き着いたのかなと。それで、そういったものをミックスしたものにしていけたらいいなと思ってやってきた感じはありますね。 

 

──折坂さんが作詞作曲をされる上で、影響を受けたり、インスピレーションを得たりするのはどういったものですか? 

 

先程も挙げたんですが、音楽でいえばやっぱりレディオヘッドの影響はすごく大きいです。この間もラジオでKing Gnuの常田(大希)さんと話した時に、常田さんもレディオヘッドが好きで、『Ok Computer』っていうアルバムの曲がルーツになっていると話してくれて。やっている音楽は全然違うけど、そういうところで被っているのは面白いなと思いました。 

 

──作詞の部分ではいかがですか? 折坂さんの歌詞を拝見すると、作詞家というより詩人と言いたくなるような、歌としてメロディがついていなくても“詩”として成立するような歌詞を書かれる方だなという印象を受けました。 

 

そう言ってもらえるのはすごく嬉しいです。歌詞を書く時に、メロディをつけなくて読んでも“詩”として読めるものになるように意識しています。作詞の面では、ミュージシャン以上に詩人の方からインスピレーションを受けることが多いですね。もちろん日本のフォークソングなどにも影響を受けている部分もあるんですが、そういう方達も、すでにある詩に曲をつけて歌っていたりするんですよ。 

 

──3月10日発売のミニアルバム『朝顔』のお話に移りたいと思います。タイトル曲の「朝顔」はフジテレビ系ドラマ『監察医 朝顔』の主題歌として公開されています。ドラマとリンクするように作っていかれたそうですが、ドラマのどういう部分をキーワードとして作られたのでしょうか? 

 

物語の主軸に東日本大震災があって、亡くされたお母さんのことを登場人物が思いながら進んでいくようなところがあるんです。キーワードとしては、もういない人に対する気持ちや、この世にいない人が遺された人たちをどう思っているか、ということをイメージしながら作りました。 

 

 

折坂悠太 – 朝顔 (Official Music Video) / Yuta Orisaka – Asagao

 

 

──折坂さんは朝顔に対してどんな印象を抱いていましたか? 

 

朝のイメージというくらいしか朝顔に対してイメージを持っていなかったんですが、ある時に「あの花は見る時間が朝だから朝に咲いているように感じるけど、あれは夜に咲く花なんだ」と言われたことがあって。それまではぱーっと明るい希望のイメージを持っていたんですが、暗いうちからじりじりと咲いていくというイメージが制作過程の中で生まれてきたんです。それで、マイナーコードからメジャーコードへだんだん転調していって、ポジティブになっていくという、そういうイメージで作っていきました。 

 

──エンディングの展開でこの曲の印象もまた変わったのですが、この展開は最初から構想としてあったものですか? 

 

最初からありました。ここでビックリする人も多いんですけど(笑)、昔から僕を知ってくれる人は、ここが一番僕らしいと言ってくださる部分です。歌詞の中にもお祭りが出てきたり、朝顔は夏の花だし、ドラマが最初に放送されたのも夏だったので、夏とお祭りの掛け合いみたいなイメージで作りました。お祭りでテンションが上がって叫ぶような、そういうポジティブな部分をこの曲の最後に入れたいなと思ったんです。 

 

──この部分を聴いて、神様達が地上を見下ろしていて、ああいうやり取りをしているというイメージを抱きました。“そりゃ上々”って神様が言っていたらいいなって。 

 

嬉しいですね。“そりゃ結構”“そりゃ上々”って最後にくると、今の世の中の状況とか、聴いてくれる人達が置かれている状況をすべて肯定するような、そういうイメージがあるかなと思って制作しました。 

 

 

 

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