キャリア初となるオールタイム・ベストアルバム『BEST OF THE SUPER CINEMA 2008-2011/2012-2019』をリリースしたcinema staff。そんな彼らに本作への想いをはじめ、新曲の「新世界」と「斜陽」について、思い出に残っている楽曲、さらに普段の音楽の聴き方についてなど、話を聞いた。
歴史を辿って最後に感動するっていう、そういう流れで聴いてほしい
──9月18日にリリースされたcinema staff初のベストアルバムは、インディーズ時代とメジャーデビュー以降の曲が網羅されつつ、全曲リマスタリング、新曲も2曲収録されているという、昔からのファンの方にも最近ファンになってくれた方にも嬉しい作品となっていますが、メンバーの皆さんのこだわりが詰まっているのでしょうか?
飯田:このベスト盤が出る前にサブスクでインディーズ時代の楽曲が解禁されたり、これまでライブに来てくれているお客さんにとっては全部手にしている曲だったりするので、何か新しいことができたら、ということでメンバーと話し合った時に、新曲を入れようという話になったんです。今回全部で36曲入ってますが、新曲を入れられたということで、今まで聴いてくれていたお客さんにとっても喜んでもらえるものになったんじゃないかなと思っています。
三島:ベスト盤を出すためにバンドをやっていたわけではないし、これが集大成でここで終わるということでもないので、通過点として今までのものを整理できたということに対しては感慨があります。これで一区切りということではないということで新曲が入っているというのもあるし、僕らの歴史を振り返るという意味では価値のあるプレイリスト的なものを、ちゃんとリマスターして最新の音にできたのは大きいですね。
辻:実際に曲を並べてみて、こんなにやってきたんだなっていうことを改めて感じました。
久野:ベスト盤って入り口として入りやすいアイテムで、昔はすごい大事な存在だったと思うんですけど、今はサブスクが浸透してきたことでちょっと意味合いが変わってきてるのかなと思ったんです。新曲を入れたり曲順にこだわったりして、“新しいアルバムを聴いてるみたいになるように”という気持ちを込めてこういう形になりました。
──なるほど。新曲の「新世界」と「斜陽」は、どちらも色は違えど光を感じる楽曲でした。2曲ともベスト盤に入れるために書き下ろした曲ですか?
三島:「新世界」を作ったのは去年なんです。次のオリジナルアルバムをどういう感じにしようかっていう時に、その時の最新のテンションで作った曲で。次のアルバムを作るなら全体のテーマはこういう感じだよ、と提示した曲だったんです。アルバムの一曲目になるような。それが最新のまま残ってたんで、出すならこの曲だなと思って出しました。
──次のアルバムのために取っておくのではなく?
三島:取っておいてもよかったぐらい、いい曲だなとは思ってるんですけど(笑)。
──「斜陽」の方は、高橋國光(österreich/ex. the cabs)さんと共同制作とのことですが。
飯田:去年、國光くんが作った『東京喰種 トーキョーグール:re』のエンディング曲「楽園の君」にボーカルとして参加させてもらったんです。その時に、その曲を一緒にお客さんの前で演奏できたらいいねって話をしていたこともあって、だったらいつかそれをやるために一緒に共作曲を作ろうという話になったんです。國光くんが作った曲を三島がアレンジしてメロディをつけて、それに國光くんが歌詞をつけるというやり方で、レコーディング期間までそんなに時間はなかったんですけど、テンション高いまま一気に駆け抜けた感じでした。結果、2人の色がすごく出てるというか、2人にしかできないものができたなと、面白い曲になったなと思ってすごく気に入ってます。
cinema staff「斜陽」MV
辻:「斜陽」は國光のギターも入ってるんで、ギターがいつもよりプラスされている感覚があって、今までにない感じだったので不安はあったんですが、やってみたらすごく楽しくて。お互いを意識し合ってフレーズを作れたりして、新しい経験ができました。
久野:新曲を2曲入れるってなった時に、一曲は僕らの今一番いいと思える新曲を、もう一曲はせっかくの振り返るタイミングで、インディーズの頃からの付き合いの國光くんと一緒に作るということになって。インディーズ盤の最後にこの曲を入れることで、ストーリーが繋がって美しいかなと。歴史を辿って最後に感動するっていう、そういう流れで聴いてほしいですね。
歌っていてもゾクゾクするような、すごくいいバランスでできたんじゃないかな
──それなら、逆から聴くと未来へ向かっていく感じにもなりますね。
三島:あ、そうかもしれないですね。
──三島さんは高橋さんが書いた「斜陽」の詞に関して、どんな印象を受けましたか?
三島:歌詞が難しいですね。半分ぐらいしか意味がわかりません(笑)。彼の歌詞は文学がルーツにあるので、歌詞の意味半分、言葉の流れ半分、言葉のチョイス半分みたいな……足すと150になっちゃいましたが(笑)、そういうバランスの中でできている歌詞だと思うので、僕と作り方が全然違うんですけど、やっぱり天才だなと思います。詩を朗読してるみたいな、散文のような歌詞なんですよ。センスと字面がすごく美しいですよね。それを見るとやっぱり嫉妬します。でも自分の最近のモードは違う感じなので、そのモードの歌詞で勝負したいなと思ってます。
──三島さんの最近のモードというのは、どういうものですか?
三島:僕はわかりやすい言葉で全員に伝わるような歌詞にしたいなと思っています。プラス、情緒をちゃんと感じられるような。押し付けがましい歌詞を書くのは嫌なんですけど、字面として言葉で見た時でも耳に入ってきた時でも、何かを感じてもらって、聴いてくれた人が後押しされるようなものを、と。内容が暗いとか全体的なトーンが暗いとか明るいとかは別として、何か感じ取って前に進めるようなものでありたいと思っています。
──そういう三島さんの書く情緒感や景色が見えるような歌詞は、すごく飯田さんの声とマッチしていますね。
三島:そうですね。だからあまり固すぎるようなワードよりは、ふわっと包み込むようなイメージで書くことが多いです。
──飯田さんは今回2人の書いた歌詞を歌ってみていかがでしたか?
飯田:三島の書く歌詞はやっぱりバンドの状況を汲み取っての歌詞だなと感じるんですよ。その時その時に言った方がいいことを言葉にしてくれるというか。だから、単純にこの4人の気持ちが入る言葉であると思うんです。で、國光くんの曲はいい意味で歌を楽器として使うというか、さっき散文と言ってましたけど、確かにコラージュみたいな歌詞なんですよね。「楽園の君」の時にも思ったんですが、彼の曲はメロはあえてスカしていくというか、歌う者としてもっと気持ちのいいところがあるんだけど、あえてエモいところにいかないようにというか、普段人が選ばないようなところにどんどん進んでいく感じがあるので、それが面白いと思っているんです。だけど、今回は三島のメロをもとに國光くんが歌詞を書いたので、歌っていてもゾクゾクするような、すごくいいバランスでできたんじゃないかなと思っています。
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