「Techstars Music」キーマンが語る音楽×テック企業の未来 「体験を最優先する音楽ビジネスが勝ち残っていく」

世界的に注目が高まっている「音楽×テック」に向けた起業家支援プログラム「Techstars Music 」。その母体となるTechstars,LLCは2006年設立、米国を拠点に世界規模で起業家支援プログラムを展開しています。毎年、スタートアップを募集、そこから10社程度の企業を選抜し、ロサンゼルスで3カ月間の養成プログラムを実施。期間中は、資金やオフィス・スペースを提供、メンバー企業、各分野の専門家など外部アドバイザーからビジネス構築に向けたアドバイスやプレゼンの機会を設けています。プログラム終了時に投資家や関係者を前に「Demo Day」というプレゼンを開催、優秀な起業家は投資家から資金調達を受けることができる、という一気通貫型・少数精鋭の起業家支援を展開しています。

 

 

 

  Techstars Musicは、音楽分野でのビジネス展開に特化したプログラムとして「コンテンツ・インフラと配信」「権利関係」「データ・機械学習、AI」「デジタルネイティブへ向けた音楽教育」「技術ベースのアーティスト発掘」など多岐にわたるカテゴリを展開し、成果発表には米国内外の音楽系企業や関係者、投資会社が参加し、優秀企業への投資が実施されています。レコチョクも、2018年よりTechstars Musicに日本の企業としては初のメンバーとして参画しています。

 

 そんなTechstars Musicのマネージングディレクターであるボブ・モクジドロウスキー氏に2020年に向けた新たなプロジェクトがスタートするタイミングでメールインタビューを行い、世界の音楽業界におけるテクノロジー企業やスタートアップコミュニティの位置付け、TechStarsが目指すビジョン、彼から見た日本の音楽業界について、お話を伺いました。

 

今、エンタテイメントの世界で最も力を持っているのは音楽ファン

 

 

――近年、世界の音楽業界では、テクノロジー企業やスタートアップコミュニティからの貢献はどのように評価されているのでしょうか?

 

ボブ・モクジドロウスキー(以下、ボブ):世界のあらゆる音楽市場はテクノロジービジネス化してきました。アーティストはオンラインでファンと直接対話し、ファンは音楽ストリーミングでコンテンツを消費します。さらに、音楽を消費していたファンが、自らリミックスを作りオンラインで投稿することで、アーティストになることも可能な時代です。音楽企業が変化を受け入れ、ファンが喜ぶ価値を生み出し続ければ、こうしたオンライン体験の規模はかつてないビジネスチャンスとなります。アメリカやヨーロッパでは5年連続で音楽収益がプラス成長しました。この状況は世界中の人にとってエキサイティングなニュースです。

 

――レコチョクをいち早くパートナー企業としてメンバーに迎えましたが、期待するところを教えてください。

 

ボブ :レコチョクはTechstarsにとって大切なパートナーです。彼らは日本の音楽業界をつなげる結合組織のようで、日本の音楽エコシステムの進化を加速させるうえでも必要不可欠な存在です。また、日本の音楽ファンを理解するための膨大なビッグデータを持っているので、Techstarsが支援するスタートアップやメンバー企業にとっても、非常に価値ある存在となっていくと思います。

 

――Techstars Musicに参加するスタートアップが解決しようとしている音楽業界の課題で、具体例をいくつか教えてください。

 

ボブ :私たちが支援するスタートアップたちは、音楽の作り方と聴かれ方の新しい方法や、これまでに存在しないライブイベント体験、企業や権利関係者が多種多様なファン体験からマネタイズするための新しい形を開発しています。今、エンタテイメントの世界で最も力を持っているのは音楽ファンですからね。

 

 

ビジネスモデルの変化と市場の成長が同時に起こる時、スタートアップにとってもチャンスが生まれる

 

 

 

――Techstars Musicが発足して4年で、参加スタートアップ17社に約72億円(6700万ドル)の資金調達が実施されてきました。音楽系スタートアップや出資者は、今、なぜ増えているのでしょうか。

 

ボブ :音楽テクノロジーのエコシステムが成長している理由は、音楽市場の成長があらゆる領域に拡大しているからで、今後も成長していくと思われます。今や、世界各国の音楽市場で音楽ストリーミングが最も重要な収益源となっていますが、新たな市場から数千、数億というユーザーを獲得する、音楽ストリーミングの”セカンドウェーブ”(第2次音楽ストリーミングサービス)が発生する可能性もまだあります。そして、音楽ストリーミングへ産業が移行したことによって、新人アーティストの発掘、ファン体験、コンテンツ制作、EC、オンラインチケットなどの分野でも、今までにない新しいビジネスや成功事例が生まれていますし、音楽制作やロイヤリティ料分配の仕組みも変わりつつあります。ビジネスモデルの変化と市場の成長が同時に起こる時、スタートアップにとってもチャンスが生まれる可能性があるのです。

 

 

――日本スタートアップ企業である「EmbodyMehttps://embodyme.com/2019年のプログラムに選出されるなど、Techstars Musicと日本の関わりは深くなっています。グローバル化する音楽市場において、日本のスタートアップや音楽企業にはどんな期待をお持ちですか。

 

ボブ :日本は世界の音楽市場で売上高第2位の貴重な市場であり、アーティストを支援したいと思う音楽ファンの熱量では世界一といえます。現代の音楽産業で、日本が遅れを取る部分もありますが、反対に世界をリードしている要素もあります。我々は日本を拠点にグローバル規模の音楽ビジネスを構築することもできると信じていますし、また、日本特有の音楽ファンやリスナーの特性にマッチしたアプリビジネスも大きく成長する可能性があると思います。Techstars Musicに参加するスタートアップに対しては、1億人のユーザー、または1億ドルの売上高をターゲットとすることを期待していますが、日本から参加するスタートアップにも同様な成長を期待しています。

 

――音楽系スタートアップがTechstars Musicプログラムに参加することで、音楽業界とどのような繋がりが出来るのでしょうか?

 

ボブ :Techstars Musicに選ばれたスタートアップは、グローバルなメジャー音楽企業、世界的大手テクノロジー企業、世界クラスの投資会社から参加する300人以上のメンターと繋がり、アドバイスを受けることができます。あるスタートアップは、世界のあらゆる音楽業界とネットワークを構築できたことで、我々のプログラムによって1年分の労力をスキップさせることができたと語っています。他にも、西海岸のベンチャーキャピタルと交流するために来る人もいれば、エンタテインメントの顧客開拓を行うために参加する人もいます。これらの3つの結果は全て実現可能ですし、スタートアップにはあらゆる繋がりの可能性を提供しています。

 

 

 

音楽は、業界主導のビジネスから、消費者主導のビジネスへと完全にシフトする

 

 

――Techstars Musicでは音楽業界の課題解決に特化したスタートアップを対象にしていますが、具体的にどのような課題がありますか?

 

ボブ :例えば音楽企業は、以前よりも消費者と直接的な繋がりを維持することが重要になり、また、パーソナライズされた体験を提供するため、ファンからコンテンツへのアクセス手法も改善が必要です。そして、世界規模では、若者は今までにない自身の表現の機会や、音楽やアートで周囲と繋がる機会の創出が求められています。

 

――現在、注目されている新しいテクノロジーや、音楽に応用可能なテクノロジーの領域があれば教えてください。

 

ボブ :現時点では特に注目している領域はありません。可能性ある音楽ビジネスの領域に、新たな技術力を開拓するスタートアップに投資しています。我々は毎年秋に世界各地を巡り、投資の可能性のある新たなスタートアップや起業家と会っています。過去3年間のプログラムでは、コンテンツ作成を支援するAI技術のスタートアップに多く投資してきましたが、今後もこのような投資を続けて行うかどうかはまだわかりません。今年はライブエンタテインメント、権利、ロイヤリティに目をむけるかもしれません。我々は特定の技術には投資しません。拡張可能なビジネスを獲得するためにどんな技術であれ、最高の新しいテクノロジーを使用する企業に投資していきます。

  

――過去10年にわたり、ストリーミングとサブスクリプションの普及で、音楽業界はデータ分析やパーソナリゼーション、新人アーティストの発掘などの分野でデジタル化が急激に進みました。今後10年の間に、さらなるテクノロジーとの融合で業界はどう変化すると予想されますか?

 

ボブ :個人的に、10年後の音楽ビジネス界は、歴史上でかつて無い規模に成長し続け、収益性の高い業界に変わると思います。また、音楽は、業界主導のビジネスから、消費者主導のビジネスへと完全にシフトすると信じています。アーティストとファン、消費者の間で仲介業者やミドルマンのようなビジネスをする音楽企業は、進化し続けるテクノロジーによってビジネスモデルが置き換えられると思います。チケット販売、ロイヤリティ徴収団体、音楽制作、リミックス、音楽物販、ファンクラブビジネス、著作権ビジネス、音楽教育や新人発掘に至るまで、あらゆる面で消費者体験を最優先する会社が勝ち残ると思います。

 

文:ジェイ・コウガミ

協力:「リアルサウンド」編集部

 

 

 

【Techstars Music 2020 Members】

 

[Techstars Music 2020 スケジュール]

2019年10月13日:応募締切

2020年2月3日:起業家支援プログラム開始(LA)

2020年4月30日:Demo Day (プレゼン)

https://www.techstars.com/programs/music-program/

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