レコチョクの新企画「Breakthrough」。第2回に選ばれたROTH BART BARON(ロットバルトバロン)に最新シングルについてや“APPLE VINEGAR MUSIC AWARD 2020”大賞を受賞した際の心境、音楽に対する考え方などを三船雅也 (vo/g)に聞いた。

※「Breakthrough」企画についての概要はこちらから。

 

ROTH BART BARON

 

 

 

 

音楽って時代の写し鏡だと思っていて。だからこそ、僕は感情に対してニュートラルでいたいし、その時の感情は大事にしたいと思っています

 

 

 

――配信シングル「SPECIAL」を聴かせていただいたんですが、あまりにも世界が混乱に巻き込まれている今の時代にぴったりで驚きました。この時期に制作したのかと思ったら、だいぶ前に作られていたんですね。

この曲は3年前に作りました。当時、ブレグジットで揺れるロンドンで、この街に似合う音楽を模索していたなかで浮かんだ曲なんです。その時もロンドンに流れる空気があまりいいものではなかったからこそ、こういう曲ができたんですが、今、日本が新たな苦境に苛まれたときに、この曲が違う輝きを放つということは、すごく不思議でありながらも、必然だったのかなと思っています。

 

 

 

――客観的に聴いてみて、今感じることも多いのではないでしょうか。

前作『けものたちの名前』というアルバムの楽曲「けもののなまえ」に、“もしここを生き残れたら”という歌詞があるんです。この曲もそのフレーズにすごく近い感覚があると思っていて。「SPECIAL」の曲のなかにある、“この最悪な 夜を飛び出して 生き残らなくちゃ いけないんだ”というフレーズは、今聴くと特に深く響きますが、どの時代にも通用する言葉ですし、21世紀を生きる人たちには響いてもらえるんじゃないかなと思っています。

 

♪ROTH BART BARON「けもののなまえ」

 

――たしかに、すごく鋭い言葉に聴こえますが、実際はエバーグリーンな言葉ですよね。

そうだと思いますし、そう思ってもらえるとすごくうれしいです。

 

――ちなみに、『けものたちの名前』は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さん主宰の“APPLE VINEGAR MUSIC AWARD 2020”にて大賞を受賞されていますね。

すごくうれしかったですね。昭和の始まりに芥川龍之介が、“僕はぼんやりとした不安がある”と言って亡くなりましたが、今はぼんやりではなく、“明確な不安”があると思うんです。そう思った時に、その感覚にふさわしい音楽を作りたいと思い、このアルバムを作りました。実際に2020年になったら5Gも始まりましたし、テクノロジーは常に進化していきます。さらに日本では地震とともに生きてきて、いろいろあったとは思いますが、どんなことがあっても大丈夫だと無責任にはいえない時代になったと思うんです。だから自分の音楽ではそういう音楽はやりたくなかったんです。ただ、そんな時代の流れの中でも多くの人たちに届くように、また、今を大事に生きようという人たちにとって、大事な音楽になれることを願って作りました。

 

――すごく、いいですね。

ありがとうございます。言ってしまえば、めちゃくちゃポップでもないし、メジャーな音楽ではないけれど、なにか心に触れるものがあったからこそ、選ばれたんだと思うので、すごくうれしかったです。今の時代でも強度がある、強い芯のある音楽が入ったアルバムになったと思います。

 

――楽曲も、ポジティブとネガティブの狭間を漂う印象を強く受けました。

僕達が生きている世界は、ネガティブとポジティブの狭間だと思うんです。ネガティブがマイナスでもないですしね。人間はときに怒らないといけないし、ずっとハッピーではないと思うんです。2013年の7年前にファレル・ウィリアムスの「Happy」をみんなで踊りながら聴いていたけど、いまはビリー・アイリッシュなどの音楽をヘッドフォンで震えながら聴く世界になっているんですよね。そう考えると、音楽って時代の写し鏡だと思っていて。だからこそ、僕は感情に対してニュートラルでいたいし、その時の感情は大事にしたいと思っています。

 

――その感情があるからこそ、聴き手を震わせるものになりますしね。

 そうですね。音楽や、いろんな感情、過去の思い出、空気の振動など、そういったエネルギーを、そしてネガティブなことを内包することがすごく正直なものだと思いますし。自分を変えてくれた映画や音楽って、決して無責任なものではないし、心の奥深くに触れてくれるものだと思うんです。ROTH BART BARONの音楽も、そうありたいですね。

 

――すごく素敵だと思います。さて、今回は“Breakthrough”アーティストに選ばれたことで、新たにROTH BART BARONについて知る人のために、改めてどんなユニットなのかお伺いしてもいいですか?

僕達は東京出身の同級生でやっているフォーク・ロック・バンドです。とはいえ、2人組といっても、楽器は50個くらい使うんです。僕の頭の中で鳴っている音が多すぎて、ふたりの手、4本じゃ足らないんですよね(笑)。なので、ツアーでは7人編成で、トロンボーンやトランペット、シンセサイザーなどを演奏してもらっているんですが、もはやステージに乗りきらないんですよ。ひと言でいえば、賑やかなバンドです。

 

――おふたりのキャラクターを教えてください。

う~ん…。食いしん坊で、パワーのあるドラムの中原と、オタクでやたら声の高いボーカルの僕の2人です(笑)。

 

――あはは! その“オタク”はどのように仕上がったのでしょうか?(笑)

僕は小学生の時に、当時流行っていたゆずやスピッツの音楽をよく聴いていたんです。そこで、ミュージシャンはアコギを持って歌うものなんだと勘違いをしたんです(笑)。その勘違いを真に受けたまま、アコギを練習して、フォークを演奏していたら、高校生の時に、主流はエレキギターだと知ってビックリしました! でも、もう戻れなかったので、アコギで頑張りました(笑)。でも、その時には日本だけでなく、古いアメリカのフォークソングや、ボブ・ディランやニール・ヤング、ビートルズにビーチボーイズなどに夢中になって聴くようになっていたんですよね。そこから、彼らのルーツを枝葉のように辿るようになったんです。

 

――探求心が強かったんですね。

強かったですね。お腹がすいている子供がたくさん食べるように、どんどん吸収していきました。

 

――言葉を恐れずに言えば、ROTH BART BARONの音楽は、ポップでキャッチーとはまた違う領域だと思うんです。それをあえて選んでいるのは、そこの探求心から来ているのかもしれないですね。

そうですね。日本の音楽はいつでも聴けるけど、未知の音楽が聴きたいという気持ちがすごく強くて、いろんな音楽を探すようになったんです。人間が古くから受け継いできた言葉がありますが、それよりも前から音楽があるんじゃないかなって思っていて…。そのコミュニケーションのひとつとして考えたときに、ちゃんと自分の音楽を聴かないと、歌わないといけないという考えが、僕のルーツになっているのかもしれません。簡単に言えば、鉛筆と紙で書くのをちゃんと極めた後に、デジタルにいかないとダメだなって思ったんです。それは何事にも言えますよね。

 

――そう思います。

そんな感覚で音楽を聴いていた時に、中原とも不思議と音楽に対する感覚が合ったんです。出会った当初は、ポストパンクブームだったこともあり、ずっと暗い曲ばかりきいていました(笑)。

 

――あはは。ちなみに、音楽を作るというアウトプットの作業は、インプットが必要だと思うのですが、三船さんのインプットはどのようなことをしているのでしょうか。

休みの日に写真を撮ったり、旅に出たりしています。今、外出がしづらいからこそ、リモートワークが増えていると思うのですが、僕達ミュージシャンは基本引きこもりなので、あまり環境が変わっていません(笑)。あとは、昔は映画監督になりたかったので、その勉強もしていたんです。なので、映画も良く見ています。

 

――ということは、映像作品を今も作っているのでしょうか。

初期の頃はよくディレクションをやっていました。あとは、アートワークの写真をよく撮ったりしています。今作の「SPECIAL」のジャケット写真も、僕がニューヨークで撮影した写真になっています。これからも視覚と聴覚、両方で表現していこうと思っています。

 

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