11月17日に11枚目となるアルバム『Kongtong Recordings』をリリースしたシンガーソングライター・安藤裕子。アルバムはまさに豊作ともいえる全12曲入り作品で、TVアニメ『進撃の巨人』The Final Seasonエンディングテーマとなった「衝撃」をはじめ、ドラマタイアップ曲などバラエティ豊かな楽曲が並んでいる。今回、リリースを記念して安藤裕子さんにインタビューを行い、楽曲に込めた想いを中心に話を聞いた。たくさんの裏話とともに作品を語っていただいているので、是非最後まで読んでほしい。
私の作った音楽が、聴いてくれた人のサウンドになっていければいいなと思っています
──ニューアルバム『Kongtong Recordings』が完成して、改めてどんな作品になったと感じていますか?
デビューして初めの15年間は、すごいミュージシャンたちに囲まれて、自分を育てた時間だったと思うんです。そこで非常に豪華なレコーディングとかもさせていただいて、いわゆる良質なポップスについて知識も与えていただいて、すごくよい教育を受けたんですよね。でも、この5年ぐらいの間は自分が人間として、大人として何を発表するのかっていうことを、ずっと模索して、自分で立ち上がるっていうことをやってきたと思うんです。そうやって歩いてきた中で、今作でまた一つポップスの道というか、そういう世界に自分で帰って来れた作品になったので、非常に満足感があります。
もちろん、Shigekuniくんというパートナーに、多大な力を貸していただいますし、何十年も音楽をやっていますけど、ようやく自分の作品を作れたな、と思っていますね。だから、「けだし名盤」と書いていただきたい(笑)。
♪「All the little things」Lyric Movie
──まさに「けだし名盤」。絶賛の声を想像するに容易い、名盤だと思います。今作に向けた制作はどこから始まったのでしょうか?
ちょうど前作『Barometz』という、いわゆる復帰作を制作した後、コロナ禍になって宙ぶらりんな感じになっちゃったんですけど、その頃に「『進撃の巨人』のコンペに曲を出しませんか?」というお話をいただいて「衝撃」を作ったんです。ただ、「衝撃」は『進撃の巨人』という作品に私自身が随分とのめり込んで、現実世界とはちょっと違う世界観で作り上げたものなので、そこに生々しい感情が向かないような気がして、「衝撃」と対になっていく曲をと思って、サスペンスチックな曲を何曲か作っていったんです。だけど、だんだん明るい曲を歌いたくなって。それでいわゆるポップス、カーペンターズみたいな曲を作ろうと思って出来上がったのが一曲目の「All the little things」なんです。この曲が出来たことで、このアルバムの答えが見えてきました。
それと、3曲目に入っている「UtU」を作っている時に、“今弾けたいんだけど、弾けたい私はめちゃくちゃ憂鬱だった”っていうことを思い出して。明るい曲に“憂鬱なんだ”っていうことをただただ乗せていったら、すごくフィットして、発散することが楽しいと思う瞬間があったんです。だから、「All the little things」と「UtU」の2曲が、一気にアルバムの形を引っ張っていってくれた感じがあります。あと、「Babyface」っていう曲も大きなポップスに育っていったし。
♪『衝撃』Music Video【TVアニメ「進撃の巨人」The Final Season エンディングテーマ曲】
──「Babyface」は、ホーンから入るイントロが印象的な曲ですね。すごく好きです。
よかった(笑)。あのイントロダクションは最初なかったんですよ。だけど何か“間”を入れたいと思っていて、短くていいから管楽器のフレーズを入れてから歌に入りたいって言ったら、立派なものをShigekuniくんが作ってくれて。それを赤塚謙一さんが吹いてくれたんだけど、彼に久しぶりにあったら、「どこにも出掛けてないし誰にも会ってないし、家でずっとゲームしてました」って、ちょっとガリガリになっていて。そんな彼がこのイントロを吹いているのを見ていたらすごく切なくなって(笑)。『太陽の帝国』っていう映画があるんですけど、その映画を観てからこのイントロを聴いたら、たぶん泣けてくると思いますよ(笑)。この曲のイントロには、私もすごく思い入れがあります。
──「ReadyReady」はドラマ『うきわ -友達以上、不倫未満-』のオープニング曲でしたね。独特の浮遊感がとてもスリリングで、ドラマの内容とあいまって、毎週ドキドキしながら聴いていました。
この曲は難しかったんですよ。オープニング曲として使われる1分程の尺の中で起承転結を作らないといけなくて、プロデューサーさんと何度もやり取りをしました。原作の漫画も読んでいて、あの世界観がどう映像化されるのかなと思っていたんですけど、非常にいい作品になっていて、頑張った甲斐があったなって。
♪『ReadyReady』Lyric Movie
──あのドラマを引きずったのか、5曲目の「恋を守って」を聴きながら、“そうそう、主人公の2人は恋を守っていたな”と思ったり(笑)。
アハハハ。結びつけちゃった。
──はい、それぐらい入り込んで聴かせていただきました。頭から順番に聴いていくと、6曲目の「森の子ら」は、曲調は明るいけど、歌詞の内容が少し異質だなと思ったんですが。
実はこの曲は『進撃の巨人』を見ながら作った曲なんです。あともう一曲、「Goodbye Halo」もそうです。だからといって、どちらもアニメのことを歌っているわけではないんですけど。「森の子ら」で歌っているのは、一方的に奪われていく喪失感。たとえば戦争であれば、一気に殺人が正義に変わるわけじゃないですか。「殲滅したよ、敵を」というと「すごいじゃないか」とほめられる。だけど、殺された側の家族や恋人の悲しみは誰が背負うの?と。私たちは戦争を非常に遠くに見ているけれど、世界で見ると日常と隣り合わせにあることで。戦争だけじゃないですよね。日々ニュースで目にする殺人事件もそう。被害者家族は法律の下でこらえなきゃいけないことが多くて、それをどう乗り越えていけばいいのかな?って。「森の子ら」はそういうことを感じて作った曲です。
──「Goodbye Halo」も、この歌詞の視点は誰なんだろう?何人かいるのかな?と、いろいろと考えさせられた曲だったんですが、この曲も『進撃の巨人』からインスピレーションを受けた曲だったんですね。
この曲は実は「衝撃」と対になっている曲なんです。ただ、解説すると「進撃の巨人」のネタ明かしになってしまうので詳しくは言えませんが(笑)。登場人物であるエレンとミカサ、アルミンという3人の幼馴染の思いが、この歌詞には詰まっています。
──なるほど。「少女小咄」は長年ライブでも披露されていて、ファンのみなさんの間ではお馴染みの曲ですが、このタイミングでアルバムに収録したのはどうしてですか?
「少女小咄」は、2016年に作った曲なんですよ。当時、それまで歌っていた曲を歌う心の体力がなくて。でもライブが決まっているから、新鮮な曲を作っていかないとステージに立てないなと思っていて、何曲か作っていたうちの一曲なんです。大人の女性が恋なんて忘れてしまったっていう暮らしの中で、“でも、いいな”って夢を見る、妄想する。誰かに「好き」って言われても、本当の姿を見られたらすぐに幻滅されるじゃん、飽きられるじゃんって思っちゃっている曲なんですよ。テーマとしては二世代ぐらい前の曲だから、入れるかどうか悩んだんですけど、今の担当ディレクターがこの曲を熱烈に好きだと言うので、そんなに好きだって言ってくれるなら、ちゃんと形にしようと思って今回入れることになりました。女性の抒情的な部分が漏れている曲ですね。
──どの曲も濃くて深くて、エピソードも非常に面白いです。
ほんとに、どの曲もリード曲って言っていいくらいなんですよ。「僕を打つ雨」っていう曲もものすごくいいんですよ。
──「僕を打つ雨」は、タンタンというスネアの音が、雨音のようで心地いいんですよね。
あのゲート・リバーブ感、いいでしょ。
──最高です。あと、アルバムタイトル『Kongtong Recordings』に込めた想いも聞かせてください。
これは、本当にこの2年間そのものを表していて。何一つ安定した時間を送ることができなかったし、制作においても揺れに揺れて指針も大きく変わってしまったし、そういうカオスな状態をそのまま表現しました。
──『Kongtong』は、音のまま“混沌”ということですね。
そうです。
──これから先についてですが、アルバムが完成したら、やはり生のライブで聴いてもらいたいですよね。
そうですね。ただ、この状況下なので組み立てては消え、組み立てては消えてしまうので、まだなんとも言えませんが。希望というならば、バンドライブはそんなに各所行けないかもしれませんが、編成をちょっと減らしてアコースティック的な形態でも、いろんな地方を巡って、生でお届けできたらいいなと思っています。生で歌うと響きも違うでしょうし、より力強くなると思うし。今ようやく、自分の体で音楽を楽しむっていうところにタームとしては入っているので、叶うのであればそういうツアーをやりたいですね。
──最後に読者のみなさんへ、メッセージをお願い致します。
昔も今も変わらず、私の作った音楽が、聴いてくれた人のサウンドになっていければいいなと思っています。なので、みなさんにはそうやってこの楽曲たちを可愛がっていただいて、ご自身のサウンドトラックにしていただけたら嬉しいです。
文:大窪由香
写真:平野哲郎
▼安藤裕子『Kongtong Recordings』はこちらから
レコチョク:https://recochoku.jp/album/A2002502052/album
TOWER RECORDS MUSIC:https://music.tower.jp/artist/detail/2000000173
dヒッツ:https://dhits.docomo.ne.jp/artist/2000000173
【「空間の音楽~深夜、ホテルの窓に映る男~ by 安藤裕子」プレイリスト】
[セレクト理由]
原稿の締め切りに追われ、眠気と闘う男。珈琲を啜り、昔の彼女を思い出しちゃったりなんたりしながら徐々に煮詰まりから脱却していく……そんな真夜中の大都会、ホテルの部屋のためのBGM。
[楽曲リスト]
1.Courtney Barnett「Hopefulessness」
2.DJ Shadow「ビルディング・スティーム・ウィズ・ア・グレイン・オブ・ソルト」
3.ポーティスヘッド「ザ・リップ」
4.チェット・ベイカー「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」
5.Bill Evans Trio「ワルツ・フォー・デビイ [テイク1]」
6.Mount Kimbie「Blue Train Lines」
7.ザ・キュアー「インビトゥイーン・デイズ」
8.Cage The Elephant「Cry Baby」
9.ザ・フー「シー・ミー・フィール・ミー」
10.Stevie Wonder「神の子供たち」
11.Tears For Fears「Shout [7″ Edit]」
12.Can「Moonshake」
13.Prince「America」
14.ザ・ビートルズ「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ [Remastered 2017]」
15.安藤裕子「UtU」
※「OTORAKU -音・楽-」アプリで提供される楽曲は、アーティストや著作権者、レコード会社等の都合により、予告なく配信を終了する場合があります。またソングリストによって曲順がシャッフルされる場合があります。
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安藤裕子
1977年生まれ。シンガーソングライター。
2003年ミニアルバム「サリー」でデビュー。
2005年、月桂冠のTVCMに「のうぜんかつら(リプライズ)」が起用され、大きな話題となる。
類い稀なソングライティング能力を持ち、独特の感性で選ばれた言葉たちを、
囁くように、叫ぶように、熱量の高い歌にのせる姿は聴き手の心を強く揺さぶり、
オーディエンスに感情の渦を巻き起こす。
物語に対する的確な心情描写が高く評価され、多くの映画、ドラマの主題歌も手がけている。
CDジャケット、グッズのデザインや、メイク、スタイリングまでを全て自身でこなし、
時にはミュージックビデオの監督まで手がける多彩さも注目を集め、
2014年には、大泉洋主演 映画「ぶどうのなみだ」でヒロイン役に抜擢され、
デビュー後初めての本格的演技にもチャレンジした。
2020年8月26日に待望となるアルバム「Barometz」をリリースする。
アルバム収録曲となる「一日の終わりに」のMVをショートフィルムへと作品化した映画『ATEOTD』が9月25日(金)よりイオンシネマほか全国公開。
この年、TVアニメ『進撃の巨人』The Final Seasonのエンディングテーマ曲として「衝撃」が決定し、解禁時にはトレンド入りを果たす。
2021年2月3日にシングル「衝撃」をリリースし、2021年11月現在ストリーミング累計再生回数が2,700万回を突破し、今もなお国内外にて大きな反響となっている。
8月にはテレビ東京系ドラマ「うきわ -友達以上、不倫未満-」オープニング曲「ReadyReady」を配信リリースし、10月に表紙モデルと短編作品1作品が収録された「コーヒーと短編」がミルブックス刊行となる。
さらには、10月29日から公開となる映画「そして、バトンは渡された」にも出演を果たす。
そして、11月17日には待望の11枚目のオリジナルアルバムとなる「Kongtong Recordings」がリリース。