「ライブハウスの未来は明るい」―ムロフェス主催/O-Crest店長 室 清登が語る、音楽業界の今と未来「ライブハウスの未来は明るい」―ムロフェス主催/O-Crest店長 室 清登が語る、音楽業界の今と未来「ライブハウスの未来は明るい」―ムロフェス主催/O-Crest店長 室 清登が語る、音楽業界の今と未来

INTERVIEW

「ライブハウスの未来は明るい」―ムロフェス主催/O-Crest店長 室 清登が語る、音楽業界の今と未来

ムロフェス主催/O-Crest店長 室清登

音楽業界で輝く方にスポットライトを当て、
彼らの仕事や想いを通して音楽業界の今と未来を伝える企画、3rd Lounge。

第17回は、Spotify O-Crest店長であり、「MURO FESTIVAL」の創設者でもある室 清登氏が登場。2024年7月に12回目となる大規模フェス「MURO FESTIVAL」(通称:ムロフェス)の開催に向けて準備中である今、本イベントへの想いから、音楽業界で働くことになったきっかけ、そして音楽業界やバンド、ライブハウスへの想いなどを語ってもらった。

Chapter.1 
音楽ルーツと現在の仕事に就いたきっかけ

──室さんの音楽のルーツを教えてください。

1990年代のヒップホップシーンがすごく好きで、レコードをめちゃくちゃ買っていました。当時はヒップホップが日本で流行り始めた時で、友達同士でレコードを貸し借りしたり、カセットテープに録ったものを、まわして聴いたりしていて。友達伝いとか雑誌とかで海外のヒップホップ文化に触れることが多かったですね。周りにバンドをやっている友達がいなかったこともあり、ライブハウスで働くまではバンドやロックっていうものを聴いてこなかったんですが、ライブハウスで働く中で “バンドやロックって、こんなにかっこいいんだ”と気づかされました。

──そうだったんですか。ライブハウスで働くことになったきっかけは?

今から20年以上前のことなんですけど、音楽業界を目指そうというよりも、これから勉強するなら中国語だろうと思って、中国に行こうとしたんですよ。当時、大阪・心斎橋BIGCATを運営している会社が中国にライブハウスを作ると言っていて、そこで働くために、まずは大阪でライブハウスの仕事を学んでから行こうと思い、入社しました。だけど、その大阪のライブハウスがすごく楽しくて(笑)、そのまま仕事を続けました。

──BIGCATではどんなお仕事をされていたのですか?

最初は受付やドリンク、あとは事務作業とか、なんでもやっていた感じですかね。その次にLIVE SQUARE 2nd LINEに異動になったんですけど、BIGCATよりももっと小さい箱なので、自分たちでなんでもやらなきゃいけなくて、照明などもやっていました。2nd LINEは当時まだオープンして一年目で、新しいライブハウスを作るにはこうやっていくんだっていうことや、ライブハウスの価値観みたいなものを学ばせてもらいました。たとえばブッキング担当が変わった途端に、ライブハウスが店内の活気も含めて、すごく賑わってきたんです。人で変わるんだなということを肌で感じました。その後は東京のO-WESTに移って、ステージ周りの仕事をやっていました。

室清登

──当時の大阪と東京のライブハウス事情は違っていましたか?

東京は毎日人がたくさん入っていて、スケジュールも埋まっているから、すごいなと思いましたよ。大阪では1日10人とか20人みたいな日も見てきましたが、O-WESTに来ると毎日300人ぐらい入っている。でもなんか業務的というか。仕事量が多いからか、一つひとつの対応が形式化されているような感じがして、ちょっと嫌な気持ちになったりもして。東京って冷たいなって思いました。もともとこっちの出身なのに(笑)。

──O-WESTから、現在のO-Crestに異動されたんですね。

そうです。O-WESTで働いていて、そのうちにO-EASTが建て替わって、O-Crestが出来て。当時、僕が辞めたそうにしていたのを察したのか(笑)、上の人が「O-Crestに行くか?」っていう感じで行かせてくれて。最初はステージ周りの仕事をやっていたんですけど、当時は貸し小屋みたいな印象があって、それがまたつまらなくて。2nd LINEの時に感じたような、出演者とライブハウスとのグルーヴみたいなものがもっとあった方がいいんじゃないかなと思っていたので、自分でブッキングをやるようになり、その後、店長になりました。

Chapter.2 
働く上で大事にしていること、音楽シーンの変化や課題

──店長になられてから、お仕事において意識されたこと、大切にされていることはどんなことですか?

ブッキングと、やっぱりお店作りですかね。ギスギスした環境のお店はたぶん、バーとか受付とかにも出てくると思うんですよ。僕らにとっては観に来る方もそうですが、バンドも“お客さん”です。出演者が立ってくれないと成り立たない仕事なので、出演者にまた出たいなって思ってもらえるようなお店作りを意識しています。
あとは、受けた仕事に対して責任をもって100%でやる。一本一本丁寧にやる。それが大事なのかなと思います。

──コロナ禍では、ライブハウスも大きな打撃を受けたと思います。

O-Crestも大変でしたね。まずはライブハウスの存続と、やれることをやっていくしかないかなって。アルバイトも一度全員辞めてもらったりしましたし。でもコロナ禍があったから改めて、一本一本を丁寧にやることの大切さに気付けたな、って思っています。お客さんが来てくれることが当たり前じゃない。時代の流れを見ていると、ライブハウスもバンドも、胡座をかいた瞬間に終わっていくなっていう印象があって。常に、いつの時代も、一番出たい箱になるっていうところを目指しています。

室清登

O-Crestも大変でしたね。まずはライブハウスの存続と、やれることをやっていくしかないかなって。アルバイトも一度全員辞めてもらったりしましたし。でもコロナ禍があったから改めて、一本一本を丁寧にやることの大切さに気付けたな、って思っています。お客さんが来てくれることが当たり前じゃない。時代の流れを見ていると、ライブハウスもバンドも、胡座をかいた瞬間に終わっていくなっていう印象があって。常に、いつの時代も、一番出たい箱になるっていうところを目指しています。

──今、ライブハウスはコロナ禍前に戻ったと思いますか?それとも、変化していると思いますか?

変化していると思っています。コロナ禍でライブハウスに来なくなった人は、なかなか戻ってこられないと思うので。でも、SNSの普及で、ライブハウスが昔よりも入りやすいところになったと思っているんですよ。その分入りやすくしておきたいし、深みも出しておきたい。ライブハウスはもっと楽しいんだよっていうことを示していきたいと思います。

──今のお仕事を通して、現在の音楽シーンの課題として、どういうことを感じられていますか?

人気が出ているバンドと、そうでないバンドの差が激しいことや、世代ごとに客層が分かれているっていうところですかね。僕はわりと、ムロフェスの主催の際も、世代やジャンルも超えて一緒くたにしたいというか、全部をごちゃまぜにしたい、という想いがあって。もちろん、世代で盛り上がっていくというのも大切だと思うんですけど、今盛り上がっている若い子たちも、10年後には上の世代になるわけで。若手が出てくることもいいことだと思うんですけど、それをうまく繋いでいかないと、すごい狭い世界になっちゃうと思い、あえてやっているところはあります。

室清登

──今お話にあがったムロフェスは、2012年から始まって、今年で12回目ということですが、始められたきっかけを教えてください。

2012年当時はフェス文化が盛り上がりつつある時だったんです。でもキャパ250のO-Crestをソールドして卒業していったバンドが、有名なフェスに出られるかっていったら、出られないんですよ。大人の事情だったり、事務所の関係とかで。それが悔しいというか、それに対するアンチテーゼというか。自分たちで何かやらないと広げられない、ムーブメントを起こせないんだなと思って、バンドと一緒に野外でイベントフェスをやろうと思ったんです。
あと、フェスが流行ってきた2012年頃は、ライブハウスからお客さんが消えたんですよ。

──え、ライブハウスに影響があったんですか?

ありましたね。フェスは有名なアーティストがいっぱい出ますしね。だからフェスシーズンになると、ライブハウスにお客さんが来ない。そういうところを変えたい、ライブハウスにもう一回お客さんに来てもらいたい、みたいな想いもありました。

──ムロフェスを始めた当初は、どういうフェスにしたいと考えていらっしゃいましたか?

どのバンドが出てもウェルカムなイベントにしたいっていうことですかね。フェスというより、イベントに近いですね。最初は1,000人ぐらいからスタートして、2023年は2日間で1万5,000人ぐらい来てもらって、バンド数もけっこうな数になってきて、O-Crestともうまくつながって、当初思い描いていた以上のものになっているのかなと思います。

──ムロフェスで観て、いいなと思ったバンドをO-Crestに観に来るというようなことも?

そうですね。バンドから「ムロフェスで観て好きになったんです、とお客さんから聞いたんです」とか、「ムロフェスで聴いて良かったと思った人が、ここにも来てくれたんです」ということを言われるのが一番嬉しいです(笑)。

──昨年からインディーズアーティストの音楽活動支援を行っている「Eggs」とタッグを組んで、「ムロエッグ」というオーディションを開催されました。きっかけを教えてください。

O-Crest自体が、若手や新しいバンドとの距離ができちゃったんですよ。若手バンドだと、下北沢のライブハウスの方が出やすい雰囲気があるし、友達のバンドに誘われて出るっていうことが多いじゃないですか。そうなってくると、渋谷ってけっこうハードルが高いのかな?という印象があって。なので、新しいバンドとの出会いを求めるなら、こちら側から何か発信しなきゃいけない。それにはEggsさんの力が必要だなと思ったので、ご一緒させていただきました。

室清登

O-Crest自体が、若手や新しいバンドとの距離ができちゃったんですよ。若手バンドだと、下北沢のライブハウスの方が出やすい雰囲気があるし、友達のバンドに誘われて出るっていうことが多いじゃないですか。そうなってくると、渋谷ってけっこうハードルが高いのかな?という印象があって。なので、新しいバンドとの出会いを求めるなら、こちら側から何か発信しなきゃいけない。それにはEggsさんの力が必要だなと思ったので、ご一緒させていただきました。

──オーディションを実施すること自体に、当初は迷われていたそうですが。

オーディション自体、今でもあんまり好きじゃなくて。それはバンドに対して甲乙つけるってどうなんだろうな?っていうのがあって。不合格を出すことによって、折れちゃう人がいたら嫌で、あんまりやりたくないなと思っていたんです。

──実際にオーディションをやってみていかがでしたか?

想像以上に良かったですね。O-Crestでライブ審査をやった時にも、めちゃくちゃお客さんが来てくれたし。ありがたいことに応募数も多くて。「ムロエッグ」をきっかけに出会って、繋がっていったバンドも多いんです。

──昨年は急遽3組がグランプリを獲得されたんですよね。

はい、急遽です(笑)。もともとは1組だったんですけど、1組は無理だわ、って発表の直前に変えて。

──昨年グランプリを受賞されたBrown Basket が、今年のムロフェスでメインステージに立つことが決まっています。

やっぱり「ムロエッグ」でグランプリを獲ったバンドをメインステージに立たせたい、という気持ちがあって。それに、1年前よりも着実に大きいバンドに成長しているな、ステージを任せられるな、と感じられたので、お声がけをさせていただきました。

──今年も募集がスタートしていますが、そこに寄せる期待などありますか?

めちゃくちゃありますよ、期待しかないです。今年はライブ審査を2日間にしました。「ムロエッグ」を通してムロフェスを知ってくれる人もいて、それも嬉しいことですし、バンドの気持ちに答えたいっていうのもあるし。枠は決まっているので、全バンドを出すということはできないですけど、そのチャンスの枠はライブ審査の結果によって、ちょっと広くなってもいいのかなと。

──今年も2組から3組になることもあるかもしれない。

どうなんですかね(笑)。最初から決めていることほど苦手なことはなくて。やってみて2バンドよかったから、2バンドでいいじゃん、結果1バンドしかいなかったら、それでいいじゃんって思うタイプなので。

──室さんは新しいバンドや音楽に出会うと、今もワクワクしますか?

ドキドキしますね。僕はバンドを見る時や、人と接する時に、いいところを見るっていうことを意識しているんです。ダメなところを見ようとすると、けっこういっぱい出てきちゃうんで(笑)。でも、それに勝るいいところがあれば、よりそこを伸ばしていけると思っています。

Chapter.3 
フェス・ライブハウスと音楽業界の未来

──出演アーティストも何組か発表されていますが、今年のムロフェスはどんなフェスにしたいと思っていらっしゃいますか?

それこそライブハウスと一緒かもしれないですね。バンドが出てよかったとか、お客さんが来て楽しかったっていうのが一番で。それに対して会社的にやらなきゃいけないこともあるので、そこをクリアしつつ、いろんなことをちゃんとできたらいいかなと思います。

──室さんは現在の音楽業界に対して、どんなことを思われますか?

これが10年前とか20年前とかなら、音楽業界に風穴を開けてやるよっていう感じの野望はあったんですけど(笑)、じゃあ今って言ったら、先ほども言った通り、お客さんがうまく混ざっていってほしいなっていうことですかね。ネットやSNSの普及によって、才能のある人がより早く見つかる時代になったなと思うので、よりネットやSNSと、現場であるライブハウスとをうまく繋げていきたいですね。
5年前よりも、最近バズって人気になるバンドの方が、より力があると思っていて。昔はバズってちょっと人気が出るっていうバンドも多かったんですけど、今はちゃんといいライブをやって、ライブでも集客を上げていく人が多いと思っています。

──バズるバンドというのも、ごく一部だったりするのかなと思うのですが、そのために必要なことってどんなことでしょう?

セルフプロデュースがちゃんと出来てないと、なかなか難しいですよね。運だけではないと思います。自分たちをどう見せたいか、自分たちがどう見られているかっていうことがちゃんと分かっている人たちは、お客さんが増えていっているんじゃないかなと思います。

──10年後の音楽産業はどんなふうになっていると思いますか?

盛り上がっているんじゃないですかね。ライブハウスの未来は明るいと思っていますよ。

──それはどうしてですか?

O-Crestで考えたら、年間の動員数がコロナ前より1.5倍ぐらいになっているんですよ。若いお客さんもすごく多い。若いっていうことは、未来に残っていく可能性が高いですから。サブスクの普及もそんなに悪いことではないと思っていて、むしろバンドに入ってくる間口が広がったと思うんです。うまく使えば金銭面でも、バンドに入ってくるものはでかいなと思います。

──最後に、これからの音楽業界を盛り立てていく同志に向けてメッセージをお願いします。

折れないことが大事なんじゃないですかね。折れそうになることもたくさんあると思いますし、どうしてもダメなことはしょうがないと思うけど、折れない心を持つことは大事なのかなと思います。僕も40歳を超えて思ったんですけど、40歳過ぎまで音楽業界に残っている人って、やっぱり何かを残した人や、何かを残したいという想いが強い、と思っていて。明確でなくてもいいけど、イメージをもって、折れない心を持って取り組むことが大切なんじゃないかなって思います。

PROFILE

  • 室清登

    GUEST

    室清登

    ムロフェス主催/O-Crest店長
    大阪・BIG CATで自身のキャリアをスタートし、現在はSpotify O-Crestにて店長を務める。2012年より自身の名前が由来となる「MURO FESTIVAL」を開催、今年で12回目を迎える大盛況イベントへと導いた仕掛け人。

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