「常に大事にしてきたのは“アーティストオリエンテッド”」。ビクター・小野氏が語るレコード会社の未来と存在意義「常に大事にしてきたのは“アーティストオリエンテッド”」。ビクター・小野氏が語るレコード会社の未来と存在意義「常に大事にしてきたのは“アーティストオリエンテッド”」。ビクター・小野氏が語るレコード会社の未来と存在意義

INTERVIEW

「常に大事にしてきたのは“アーティストオリエンテッド”」。ビクター・小野氏が語るレコード会社の未来と存在意義

株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント
カンパニーエグゼクティブ 制作本部長 兼 同本部A&R1部長 兼 同部タイシタレーベル長
 
小野 朗

音楽業界で輝く方にスポットライトを当て、彼らの仕事や想いを通して音楽業界の今と未来を伝える企画、3rd Lounge。

第14回は、株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメントの小野 朗氏が登場。
同社に入社することになった経緯や音楽ルーツ、仕事をする際に大事にしていること、未来の音楽業界についてや、彼の考えるレコード会社・レーベルの存在意義など、音楽を軸に様々なことを語ってもらった。

Chapter.1 
音楽ルーツ、ターニングポイントになった出来事

──小野さんの音楽ルーツを教えてください。

4歳の頃から高3までずっとピアノを習っていて、特にクラシックを弾いていたので、クラシックはベースにありますね。ポップミュージックは、小学生の頃は歌謡曲が好きで『ザ・ベストテン』を毎週観ていました。中学生の頃にYMOが好きになって、そこからいろいろ掘っていった感じですね。

──音楽業界を目指すようになったきっかけは?

高校でバンドを始めて、大学でもバンドをやりつつ、PAのアルバイトをしていて、夏休みにとしまえんの野外ステージでハコバンが家族相手にライブをやるんですけど、そのPAをやっていたりして。大学時代は音楽しかやってなかったです。なので、その頃から音楽の仕事をしたいと思っていましたし、就職も基本はレコード会社で考えていました。テレビ局とか出版社も受けてみたりはしましたけど、なかなか厳しくて、最初に受かったビクターに決めました。そこからずっと変わらずですね。

小野 朗

──仕事をする上で、大事にしていることはなんですか?

僕は長いことスピードスターレコーズというレーベルで仕事をしてきたので、そこの側面がどうしても強くなっちゃうんですけど、うちのレーベルはアーティストオリエンテッドであることを大事にしています。とにかくアーティストが一番で、それをどうサポートするかが我々の仕事である。そこは一貫していると思います。僕は1994年入社なんですけど、最初は東北地方担当の宣伝マンだったんです。翌年にスピードスターの東北エリア担当になって、3年目から転勤で東京に来た。だから、1995年からずっとスピードスターに関わっているんです。

──これまで担当してきた仕事の中で、特に印象的だったことは?

ひとつ選ぶのは難しいですけれど、僕が最初に担当したのがTHE MAD CAPSULE MARKETS(ザ・マッド・カプセル・マーケッツ)だったんです。で、ちょうどその頃に日本でも野外フェスが始まったんですよね。1997年にフジロック、その後ライジング・サン、ロック・イン・ジャパン、サマーソニックと、あの頃に始まったフェスの第1回にはマッドのおかげでほとんど行っていて、印象に残っています。あと、すごかったのは2002年のオズフェスト。イギリスのブライトンに観に行ったんですけど、現地のファンがマッドのライブに狂気乱舞しているんですよ。ロックバンドが海外でライブをやって、あんなに受けるというのはかなり先駆的だったと思いますし、感動的な光景でしたね。

──手応えのあった仕事ということでは、どうでしょうか。

これもいろいろあるんですけど、社会的な波及力の大きさということで言うと、サザンオールスターズの30周年の活動休止と、35周年の再スタートの時の仕事はやっぱり大きかったと思います。どちらもNHKのニュースになるようなことでしたし。それをいかにインパクトをもって、かつセンセーショナルに演出するかというのを考えて発信していくのは面白かったです。サザンは本当に稀有な存在だし、あんなバンドは二度と日本で、ひょっとしたら世界でもなかなか出てこないかもしれないですから、そういったアーティストに携わらせてもらえてよかったと思っています。

Chapter.2
音楽業界で働く上で大事にしていること、レーベルのアイデンティティ

──小野さんのキャリアは宣伝担当から始まっていますが、その経験がご自身の軸になっているようなところはありますか?

そうですね。今は立場上それ以外のことにも関わっているから、あんまりそう言いすぎると怒られちゃうかもしれないけど(笑)、僕はマインドとして、今でも“いち宣伝マン”っていう意識があります。宣伝はパブリシストとは違って、とにかく露出を取る、ということではなくて、「お客さんにこのアーティストをこういう風に見てほしい」「この曲をこういう風に聴いてほしい」というところから逆算して宣伝を考える。それが、送り手としても一番大切なことじゃないかと思っています。

小野 朗

そうですね。今は立場上それ以外のことにも関わっているから、あんまりそう言いすぎると怒られちゃうかもしれないけど(笑)、僕はマインドとして、今でも“いち宣伝マン”っていう意識があります。宣伝はパブリシストとは違って、とにかく露出を取る、ということではなくて、「お客さんにこのアーティストをこういう風に見てほしい」「この曲をこういう風に聴いてほしい」というところから逆算して宣伝を考える。それが、送り手としても一番大切なことじゃないかと思っています。

──くるりや星野源など、スピードスターには個性的なアーティストが集まっています。レーベルカラーはどんなところから育っていったと思いますか?

さっきお話したように、アーティストオリエンテッドであるということが一つ大きくあること。そしてもう一つはあくまでもポップスであること。ジャンルはバラバラだけど、この二つが自然と両立する地点が今のスピードスターの色を作っていると思うんですよね。ミュージシャンズ・ミュージシャンと言われる人がとにかく多くて、でもマニアックになりすぎず、ポップミュージックとして成り立っている。

──玄人受けするだけでなく、ポップスとしての波及力もあるタイプのアーティストが揃っている、と。活動の中でジャンルや音楽性が変わっていくような方も多いですね。

そうですね。その源流にいるのは細野(晴臣)さんかもしれないです。細野さんはスピードスターのオーセンティックなアーティストではなくて、たまたまご縁があってお付き合いいただいているんですけど、スピードスターには“細野チルドレン”と言えるような、細野さんをリスペクトしているアーティストがたくさんいます。細野さんこそ本当にジャンルがなくて、作品ごとに全然違うし、時代によっても変遷してきている。そういうタイプのアーティストと僕らが自然とお付き合いをするようになっているのかもしれないですね。

──そういうタイプのアーティストを世に広めていくには、たくさん露出させればいいというだけじゃない工夫やアイディアが求められるのではないかと思います。

全くその通りだと思います。特に、今の時代はアーティストがレコード会社の力を借りなくても自由に音楽をやることができて、しかも、それが商売になり得るようになってきているわけで。だからこそ僕らのようなレコード会社の人間は、自分たちの存在理由を考えていかないといけないと思うんですけど、レコード会社の存在意義や重要な点はそういうところかもしれないですね。

──3月18日(土)には幕張メッセでレーベルの30周年を記念したライブイベント「SPEEDSTAR RECORDS 30th ANNIVERSARY LIVE the SPEEDSTAR supported by ビクターロック祭り」が開催されました。どんな想いで開催に至ったんでしょうか?

最初は30周年だからって安易にイベントやるのもどうかなって思っていたんです。でも、これを機に、改めてこのレーベルのことを考えたり、今いるラインナップを眺め直したりしたときに、本当に素晴らしいアーティストが揃ってくれているし、そういうレーベルが30年続いたということ自体を誇りに思えてきて。そもそも「レーベルって何なの?」という人もたくさんいると思うんですけど、レコード業界にレーベルという概念があるということを知ってもらえるきっかけにもなると思ったので、開催しました。

──この先のレーベルのビジョンとして考えられていることはありますか?

まず、どんどん新しいアーティストを探して、世に出していくことは大きな目標として掲げていますね。ただ、そんなに大きくビジョンや方向性を変えることはないかなと思っています。流行りも移り変わるし、流通のあり方や音楽の聴き方はいろいろ変わってきたけれど、冒頭でお話ししたようなうちのレーベルで大切にしてきたことは一貫して変わらないので。この先もそこをブレずにやっていけば、時代の変化にも上手く沿っていけるんじゃないかなと信じています。僕は2010年にレーベル長になったけど、いわゆる組織的な指針みたいなものはなくて。その時その時で面白いもの、格好いいものをやってきている。それが一時期の流行り廃りではなく、しっかり長いこと活動するアーティストが残っている。その感じを変えずにやっていければ、この先も面白いことになるんじゃないかと思っています。

まず、どんどん新しいアーティストを探して、世に出していくことは大きな目標として掲げていますね。ただ、そんなに大きくビジョンや方向性を変えることはないかなと思っています。流行りも移り変わるし、流通のあり方や音楽の聴き方はいろいろ変わってきたけれど、冒頭でお話ししたようなうちのレーベルで大切にしてきたことは一貫して変わらないので。この先もそこをブレずにやっていけば、時代の変化にも上手く沿っていけるんじゃないかなと信じています。

小野 朗

僕は2010年にレーベル長になったけど、いわゆる組織的な指針みたいなものはなくて。その時その時で面白いもの、格好いいものをやってきている。それが一時期の流行り廃りではなく、しっかり長いこと活動するアーティストが残っている。その感じを変えずにやっていければ、この先も面白いことになるんじゃないかと思っています。

──先日「ビクターオンラインストア」と会員制サイトの「SPEEDSTAR CLUB」をレコチョクのECソリューション・murketを活用してリプレイスされましたが、どんな経緯だったんでしょうか?

「ビクターオンラインストア」と「SPEEDSTAR CLUB」って、ほぼ同時にローンチしているんですが、それぞれが別のシステムで作っており、連携していなかったんです。システムをはじめ裏側を統一するほうが、効率がいいだろうということでリプレイスしまして、結果メリットは大きかったです。

──「SPEEDSTAR CLUB」のような、直販もできるレーベルサイトを始めたのはどんな狙いがありましたか?

レーベルのファンを作るきっかけになる装置を意図して始めました。「SPEEDSTAR CLUB」は無料で登録できるんですけど、それはアーティストのファンがどういう属性かというデータベースが欲しかったのがきっかけです。かつ、アーティストに興味があって訪れた人に、スピードスターというレーベルを知ってもらって、好きになってもらいたい。で、せっかくそういう基地を作るなら、ショッピングもできたらなおのこといいということですね。なので、僕らとしてはお客さんがサイトにまた来たくなる導線やサービスをどんどん考えていきたいですし、これにはすごく可能性を感じています。今まで僕らは作品を作って売り出すことしかできなかったけれど、お客さんとどういうコミュニケーションをしていくかを考えたり、実際に発信したりと、できることが増えた。これは発展していく余地がある気がしています。販促とか営業の一つの領域としてだけでなく、独立して直販のあり方自体を考えるタスクフォースがあってもいいんじゃないかっていうぐらい、面白いことがいろいろできるんじゃないかなと思います。

レーベルのファンを作るきっかけになる装置を意図して始めました。「SPEEDSTAR CLUB」は無料で登録できるんですけど、それはアーティストのファンがどういう属性かというデータベースが欲しかったのがきっかけです。かつ、アーティストに興味があって訪れた人に、スピードスターというレーベルを知ってもらって、好きになってもらいたい。で、せっかくそういう基地を作るなら、ショッピングもできたらなおのこといいということですね。なので、僕らとしてはお客さんがサイトにまた来たくなる導線やサービスをどんどん考えていきたいですし、これにはすごく可能性を感じています。

小野 朗

今まで僕らは作品を作って売り出すことしかできなかったけれど、お客さんとどういうコミュニケーションをしていくかを考えたり、実際に発信したりと、できることが増えた。これは発展していく余地がある気がしています。販促とか営業の一つの領域としてだけでなく、独立して直販のあり方自体を考えるタスクフォースがあってもいいんじゃないかっていうぐらい、面白いことがいろいろできるんじゃないかなと思います。

Chapter.3 
音楽業界の未来

──音楽業界の未来に関しての話もお聞かせください。先ほど「レコード会社の人間は自分たちの存在理由を考えていかないといけない」と仰っていましたが、この先の課題としてどんなことを感じていますか?

課題は……重すぎて、正直、どうしたらいいでしょうって感じです(笑)。音楽そのものの価値は全然変わってないけれど、他の娯楽やエンターテインメントがいろいろ増えてきた中で、音楽の相対的な価値がやっぱり下がってきている。そうなると当然、ビジネスとしても工夫しないと成長していけない。そこをどうするのかを、一番考えていかなきゃいけないと思います。レコード産業というものが生まれて100年くらい経ったと思うんですけど、逆に言うと、それくらいの歴史しかないわけなので、音楽を商売にしていくということの概念自体を柔軟に考えていかないといけないんだろうなと思います。もちろん、作品が一番重要だし、音楽がちゃんと真ん中にはあるんですけど、それをただ聴くだけじゃなく、そこにいろんな付加価値をつけていかないといけない。音楽の楽しみ方自体を提案・開発していかないといけない。それが僕らの長期的な課題になってくるんじゃないかなと思います。

──テクノロジーの発達や普及は音楽に大きな影響を与えてきたわけですが、小野さんが注目しているものにはどんなものがありますか?

しょっちゅう考えたりしているわけではないですけど、お客さんが受け身じゃなく音楽を能動的に楽しんだりすることができるテクノロジーには興味がありますね。聴くのは簡単だけど、以前は自分で音楽をやるのって難しかったじゃないですか。どこかに行ったり仲間を見つけたりしないといけなかったけど、今は手軽に演奏したり、一緒に歌えるようになってきている。
たとえばメタバースとか去年、俄かに脚光をあびましたけど、そんな可能性があるかもしれないですよね。音楽に没入して、自分も簡単に演奏したり歌ったりすることができるようなものが出てきたら楽しそうだな、とか。参加する人が多くなればなるだけ、創作の可能性が出てくるわけですし、そういうことが実現していけばすごく面白いと思います。

小野 朗

──AIの自動生成ツールが誰でも使えるようになったことで、アートワークやミュージックビデオの作り方も変わってきそうですね。

変わっていくでしょうね。今もすでに、ジャケットもミュージックビデオも全部自分で作ります、っていうアーティストがすごく増えているじゃないですか。これからはもっと、いろんなことが特別な訓練を受けなくてもできるようになっていくと思うんです。これは音楽の未来としてはすごくいいと思うし、そこをどう面白くしていくか、どう広げていく手伝いができるのかというところに、もしかすると我々の今後のビジネスの可能性があるのかもしれないですね。

──ざっくりとした質問ですが、10年後、音楽業界はどうなっていると思いますか?

難しいですね(笑)。音楽業界、どうなっているんでしょうね。

──たしかに、何が起こるかわからないですよね(笑)。たとえば、10年前は日本の過去のシティポップがこんなに海外で受けるなんてほとんどの人は思ってなかったわけですし。どこから何に火がつくかわからない。

本当にわからないですよね。でも、こういうことが起きるからサブスクリプションって面白いですよね。それがなかったら絶対こんなことは起きないじゃないですか。TikTokをきっかけに突然リバイバルしたり。そういうことは増えましたね。だから、会社の売上構造みたいなものもカスタマイズしていかないといけないんじゃないのかなって思い始めています。カタログと新譜を分けて数字を見ていると、いろいろ見誤っていくことになるかなという気もします。

──コロナ禍で渡航が途絶えていましたが、いろんなアーティストがアジアで人気を獲得しているという話も聞きます。

新しい学校のリーダーズも、タイとかで盛り上がっていますからね。僕らはまだ本格的に着手できてないんですけれど、まずはタイとかインドネシアとかアジアのマーケットに向けた仕掛けをやっていかないと、とは思っています。

小野 朗

──コロナ禍で渡航が途絶えていましたが、いろんなアーティストがアジアで人気を獲得しているという話も聞きます。

新しい学校のリーダーズも、タイとかで盛り上がっていますからね。僕らはまだ本格的に着手できてないんですけれど、まずはタイとかインドネシアとかアジアのマーケットに向けた仕掛けをやっていかないと、とは思っています。

──最後に、これからの音楽業界を背負っていく同士へのメッセージをお願いします。

今は世の中が変わっている時期だから、日々の仕事はなかなかうまくいかないことも多いし、僕自身も大変な思いをしています。でも、音楽を取り巻く環境自体はすごく面白くなってきていると思うんです。いろいろな人が自由に発信できるようになったし、サブスクで手軽にたくさんの音楽が聴ける。そして、若い人たちの感覚がどんどん研ぎ澄まされてきている気がするから、それをどういう風にもっと面白く伝えていけるか、僕ら自身も楽しんでいけるかということを考えていかないと、と思っています。環境は激変していますが、それに柔軟に対応していければ、まだまだできることはいくらでもあると思うし、盛り上げていけると思います。「だから何をしたらいいのか」って、具体的に言われてもよくわからないですけど(笑)、やっぱり可能性はあると思うし、楽しんでいけたらいいなと思います。

小野 朗

PROFILE

  • 小野 朗

    GUEST

    小野 朗

    株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント
    カンパニーエグゼクティブ 制作本部長 兼 同本部A&R1部長 兼 同部タイシタレーベル長

    1994年、大学卒業後ビクターエンタテインメントへ入社。エリアプロモーターとして東北6県を担当、2年目よりスピードスターレコーズ専任のエリア担当として宣伝全般に携わる。1996年、スピードスターへ異動後、THE MAD CAPSULE MARKETS、つじあやの、WINOなど、さまざまなアーティスト担当を歴任。2006年よりサザンオールスターズを担当、2010年~スピードスターのレーベル長を務める。

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