“音楽の届け方のプロ”が語る、これからの音楽の届け方 “音楽の届け方のプロ”が語る、これからの音楽の届け方 “音楽の届け方のプロ”が語る、これからの音楽の届け方

INTERVIEW

“音楽の届け方のプロ”が語る、これからの音楽の届け方

ユニバーサル ミュージック合同会社 Virgin Music/A&R MP本部1部 浦谷 優香里

音楽業界で輝く方にスポットライトを当て、彼らの仕事や想いを通して音楽業界の今と未来を伝える新企画、3rd Lounge。

第7回はユニバーサル ミュージックの宣伝として洋楽・邦楽問わず様々なアーティストやその作品に関わってきた実績をもち、最前線で音楽を届け続けている、いわば“音楽の届け方のプロ”である浦谷 優香里氏が登場。
今回も音楽ルーツや自身のターニングポイント、仕事をする上で大事にしていること、音楽業界のデジタル化とこれからの音楽業界について思うことなど、たっぷり話を聞いた。
インタビュアーは本シリーズのインタビューを複数担当し、モデル業を中心に、多岐にわたって活躍する“音楽好きモデル”武居詩織が務める。

Chapter.1 
音楽ルーツ、ターニングポイントになった出来事

武居:浦谷さんが音楽に興味をもったきっかけを教えてください。

浦谷:もともと両親が音楽好きで、フォークソングをよく聴いていたんです。私が中学2年か3年の頃、当時フジテレビで放送されていた『LOVE LOVE あいしてる』という音楽バラエティ番組があって、私はまさにKinKi Kids世代でしたし、親は吉田拓郎さんやTHE ALFEEを聴いていた世代だったので、よく両親と一緒に観ていたんですよね。その中で、KinKi Kidsの二人が吉田拓郎さんにギターを学ぶっていうコーナーがあって、観ているときに「私もギターを始めたい」って言ったら、「ギターあるよ」って言われて(笑)。ギターを借りて練習し始めたのが、音楽にがっつりと触れた最初のきっかけかもしれないです。

浦谷 優香里

武居:ギターを始めて、バンドを組んだりもされたんですか?

浦谷:弾き始めたギターがアコースティックギターで、当時19(ジューク)さんやゆずさんがめちゃくちゃ流行っていたので、一人でコピーもしていたんですけど、高校生になって軽音楽部に入ってバンドを組んで、そこでギターを弾いていました。

武居:ライブをされたこともあるんですか?

浦谷:関西の学生が集まる軽音楽部のコンテストみたいなのがあって、それに出たんですよ。今思えば、その時が初めて裏方で仕事をする人に触れた場所だったなと思っています。

武居:なるほど。そこで、こういう仕事があるんだと知ったわけですね。そこからご自身も音楽業界で仕事をしようと思ったきっかけは?

浦谷:大学でも軽音サークルに入っていたんですけど、音楽系に絞らず就職活動をしようと思ったんです。当時TSUTAYAでアルバイトをしていたこともあり、TSUTAYAの親会社であるカルチュア・コンビニエンス・クラブなど考えていました。その時、ちょうど4年生の夏に、ユニバーサル ミュージックがインターンシップを募集していて、参加したらすごく楽しかったんですよね。「裏方っていいな!」みたいな(笑)。そこから、まさか入社できるとは思ってなかったんですけど、記念受験みたいな感覚で就職試験を受けたら、ご縁があって入社することができました。

武居:これまでお仕事を続けられてきた中で、ターニングポイントになった出来事はありますか?

浦谷:入社してからは8年間洋楽の部署にいて、その後邦楽レーベルに異動しました。今思えばターニングポイントはそのタイミングだったかもしれないです。洋楽と邦楽って全然やり方が違って、その違いがまた面白いなと思っていて。
洋楽は、基本的には世界各国に向けて今度新曲が出ます、使用できる素材にはこういうものがあります、というアナウンスがあり、各国の担当者が手持ちの材料の中からローカライズし、国内のファンに伝えていくかを考えていくことが多くを占めることになります。日本だと例えば、歌詞が日本人に伝わりやすいように日本版のリリックビデオを作ったり。
だけど邦楽の場合は、作品やアーティストをどう見せてどのように伝えていくのかということを根本から作っていくので、アーティストや事務所のスタッフと一緒に作っていくんですよね。

武居:もらった素材で料理をしていたのが、素材を作るところからになって、農業を始める、みたいな感じですね(笑)。

浦谷:まさにそうです(笑)。だからある意味、自由度は高いかもしれないですね。

武居:海外アーティストだとガッチリ決まっていて、動かせないことが多かったりするのですか?

浦谷:もちろん、一定のルールはありますが、ある程度自由にさせてもらっていたと思います。ある程度のガイドラインは決まっていますが、各国それぞれの状況も異なりますので、ある程度信頼していだいていてここまでならやっていいよ、みたいな線引きがあったと思います。

Chapter.2 
仕事において印象的な出来事、大事にしていること

武居:印象に残っている企画はありますか?

浦谷:カーリー・レイ・ジェプセンが「コール・ミー・メイビー」という楽曲を出した時に、当時、アメリカでは楽曲のMV(ミュージックビデオ)のパロディMVやカバー動画が数多く投稿されて、人気に火がつきました。 当時日本ではゆるキャラが流行っていて、日本でもMVでゆるキャラに踊ってもらったら面白いんじゃないかっていうアイデアが宣伝部から出て。それで全国のゆるキャラに募集をかけてMVを作ったり、ローラさんを起用して日本版のMVを作ったりしました。
あと、アリアナ・グランデが「デンジャラス・ウーマン」というアルバムを出した時に、アリアナ・グランデ自体もすごく可愛い人なんですけどその魅力をより広く伝えたい、ということで、リカちゃん人形とコラボして「フォーカス」という楽曲のMVを作ったこともありました。アリアナ・グランデ風の衣装を着たリカちゃんを実際にタカラトミーの方に作っていただいて。それが動くMVを作ったのは、かなり印象深いですね。(https://youtu.be/gdeUxsVkRkY

武居:それは面白そうですね。では、浦谷さんがお仕事をされている際に大事にされているポイントは何ですか?

浦谷 優香里

浦谷:それを世の中に発信した時にみんながどう見るか、というところですかね。もともとは私も音楽が好きだったので、ずっと情報を受けとる受け手としての感覚は大切にしています。これを出すことでお客さんはどう見るんだろう、という視点をもちながら、受け手側から“なんでこんなことやってるんだろう?”と疑問に思われることがないようにしています。

武居:「アーティストを新しいファンに届ける」という視点でプロモーションする上で、大切にしていることはありますか?

浦谷:今は届けるためのいろんなツールがありますよね。例えば、YouTubeもあればSNSだとTikTokも、TwitterもFacebookも。それぞれのツールにきちんと情報を届けていくことが大切だと思います。

武居:どこか一つというわけではなく?

浦谷:もちろん絞って出すことが良いこともあるとは思うんですよ。たとえば、渋谷の一つの看板にしか情報を出さずに、その写真をみんなにSNSで拡散してもらおうっていうのも一つの手段だと思うんですけど、基本的には、いろんなところに出さないと広がらないかな、と思っています。今って、良くも悪くも自分から情報を取りに行くことが少なくなっているじゃないですか。アーティスト名で検索して見にいくというよりは、「TikTokで流れてきたから」「有名なインフルエンサーが踊っていたから」みたいな感じで音楽が入ってくることが多くなったと思っているので、種はなるべくいろんな場所に蒔いた方がいいのかなと思います。

武居:お仕事をされる際に、意識されていることはどんなことですか?

浦谷:イチ音楽ファンっていうことを大事にしますし、自分がいいと思えるところを大事にしたいなと思っています。

武居:それが一番、受け手側にも響きますよね。

浦谷:結局、届ける方も人間だし、聴いてくれる方も人間ですからね。例えばですけど、このメイクアップ道具がいいよって言われても、紹介する人が本当にいいと思ってなかったら伝わらない。「この部分がめちゃくちゃよくて、こんなふうに思っているよ」って言われた方が、「確かに一回使ってみようかな」ってなりますからね。それと一緒なんじゃないかなと思っています。

武居:このコロナ禍で業界的にも変わってきた感じがあると思うんですけど、実際に肌で感じた変化はありましたか?

浦谷:先程もちょっと出ましたが、TikTokって、このコロナ禍でおうち時間が増えて見る人も増えましたよね。そこでより聴いてもらえるようになったアーティストを一組担当していて、昔の楽曲もより多く聴いてもらえるようになったんです。そこで、きっかけがあればこれまでの作品も聴いてもらえるんだな、と改めて思いました。SNSのツールにはアーティストのキャリアに関わらずチャンスは無限大にあると思います。もちろんライブができなかったり、リアルで人と会えないというのはありますけど、発信は自由にできるじゃないですか。

武居:そう考えていくと、今後の音楽業界はデジタルを中心に変化していくのでしょうか?

浦谷:コロナ禍で変わったなと思うのは、テレビの音楽番組のパフォーマンスを、韓国やアメリカで撮ったものを流すなんて、今まで考えたこともなかったと思うんです。今まではテレビ局に行って、そこでパフォーマンスをして、それを発信してもらうっていう考え方がみんなにあったと思うけど、それが物理的にできなくなったときに新しいやり方が浸透しましたよね。そういう意味ではできることの範囲や可能性が広がりましたね。

Chapter.3 
音楽業界のデジタル化とこれからの音楽業界、今後の音楽の届け方

武居:浦谷さんは洋楽・邦楽のどちらのお仕事も経験されて、海外と日本のファンの動きや、音楽市場の違いなどをどんなふうに見ていますか?

浦谷:今は、その違いがあまりないのかなと思ったりしています。日本は海外と比較して、デジタルもフィジカルも、どちらも成立している面白い国だなと思うんですよね。モノとしてCDも所有したいし、YouTubeも見たいし、レコチョクさんはじめダウンロード、サブスクでも聴きたいし…みたいな。それがうまく共存している感じがします。

武居:確かに。とはいえ、サブスクは、コロナ禍で大きく普及した印象がありますよね。

浦谷 優香里

浦谷:そうですね。サブスクはNetflixやSpotifyなどサービスが始まった当初は業界用語、みたいな感じがありましたけど、このコロナ禍で在宅時間が増えたことによって、音楽や映像でもにおいてもサブスクに入ろうと思ってくれた人が増えたような気がしています。

武居:そういったコロナ禍での変化に伴い、戦略も変化していきましたか?

浦谷:配信での作品リリースは、やはりコロナ禍に入ってから増えたと思います。それこそ、以前3rd Loungeに出演されていた山賀さんも仰ってましたけど、アーティストにとって、今発表したい作品をすぐに出せる時代になったんですよね。これまでは「曲ができてレコーディングをして、CDとして出すとなると、半年後ですかね」というようなタイムラインで進められていたものが、タイムリーに配信できる環境が整ってきています。アーティストも音楽会社も作品を発表することについて、いろんな選択肢を持つことができるようになったので、コロナがもっと落ち着いて、ツアーも普通にできるようになったとしても、その形は一つの形として残っていく気がします。

武居:浦谷さんがこれからも大切にしていきたいと思っていることは、どういうことですか?

浦谷:さっきも話した部分で、これは一貫しているんですけど、自分が好きだと思ったり、いいと思ったものを発信したいです。

武居:浦谷さんの言葉を受けて、シンプルですが、一番大事なことだと感じました。

浦谷:邦楽担当になって思ったのは、作品作りに関わる人たちが目の前にいるんですよ。アーティストの汗や涙がここに詰まっているんだって、よりリアルに感じられますし、そういう想いも含めていい曲だと思っていて。だから、これからもそのバトンを渡されたら、それをちゃんと届けるのが私たちの役目だと思っているので、しっかりやらないとなって、この話をしながら、より気合いが入りました(笑)。

武居:それはアーティストさん側からしたら、すごく嬉しいことだと思います。浦谷さんはこれからの音楽業界、例えば10年後はどうなっていると思いますか?

浦谷 優香里
浦谷 優香里

浦谷:私は12年前に入社したんですけど、その時にある人に「なんで音楽業界に入ってきたの?」「今入ってどうするの?」って言われたことがあるんです。その当時は音楽業界は斜陽産業だと言われていて、バブル期に比べたらCDの売り上げは落ちているし、デジタルもまだどうなっていくのか分からないような頃だったということだったと思いますが。「夢をもって入ったばかりなのに、そんなこと言わなくてもいいのにな」と、すごく記憶に残っていて。でも、10年以上経った今、デジタルを中心に音楽業界は成長軌道にのっていますし、スマホやストリーミングサービスの普及で音楽を聴いてくれている人も増えていますよね。聴き方もヒットチャートも新しい指標も出てきているし、いろんな音楽をいろんな人が楽しんでくれているような気がしていて。音楽を楽しむ形は変わるかもしれないですけど、10年後も音楽を発信し続けられているんじゃないかなと思っています。

浦谷:私は12年前に入社したんですけど、その時にある人に「なんで音楽業界に入ってきたの?」「今入ってどうするの?」って言われたことがあるんです。その当時は音楽業界は斜陽産業だと言われていて、バブル期に比べたらCDの売り上げは落ちているし、デジタルもまだどうなっていくのか分からないような頃だったということだったと思いますが。「夢をもって入ったばかりなのに、そんなこと言わなくてもいいのにな」と、すごく記憶に残っていて。でも、10年以上経った今、デジタルを中心に音楽業界は成長軌道にのっていますし、スマホやスト

リーミングサービスの普及で音楽を聴いてくれている人も増えていますよね。聴き方もヒットチャートも新しい指標も出てきているし、いろんな音楽をいろんな人が楽しんでくれているような気がしていて。音楽を楽しむ形は変わるかもしれないですけど、10年後も音楽を発信し続けられているんじゃないかなと思っています。

武居:そうですよね。最近は音楽好き、という人じゃなくても音楽に触れる機会がどんどん増えてきていているような気がします。今の音楽業界について思うことはありますか?

浦谷:最近『イカゲーム』を見たんですけど、「ヒットしてます」って言い切ることや、どういう風にヒットしているかの見せ方って大事なんじゃないかなということに改めて気づいたんです。日本人はあまりそういう見せ方はしないので、ちょっと真面目すぎるんですかね(笑)。
『イカゲーム』みたいなことを、音楽でもできたらいいのにって思いました。どんなに小さいところでも、それがもしかしたら世界で受け入れられるポイントかもしれない。それを見逃さないようにしないといけないなと『イカゲーム』を見て思いました。

武居:では、浦谷さんにとって、音楽はどういうものですか?

浦谷:“生活の一部”っていう感じですかね。すべてではなく、一部という感じなんです。“寄り添っているもの”という感じがします。

武居:最後に、これから音楽業界を盛り立てていく同志に向けてメッセージをお願いします。

浦谷:一緒に盛り上げていきましょう!あと、コロナ禍になって雑談ができなくなったのが残念だなと思っていて。雑談の中から学ぶことや知ることがたくさんあったんですけど、「今どんな音楽聴いてるの?」なんてわざわざ電話して聞かないじゃないですか(笑)。この2年間はそういうところが嫌なところでしたけど、また落ち着いたらそういう話がしたいですし、これからもみんなで高め合っていきましょう。

PROFILE

  • 浦谷 優香里

    GUEST

    浦谷 優香里

    2009年にユニバーサル インターナショナルに入社、宣伝部配属でweb/雑誌周りのディレクション業務を中心に、洋・邦問わず様々なアーティストの宣伝業務を担当。
    現在はVirgin Music/A&R MP本部1部に所属。

  • 武居 詩織

    INTERVIEWER

    武居 詩織

    埼玉県出身。透明感のある唯一無二の存在感で、広告・ファッション雑誌等で活躍。
    UJI ROCKなど国内のフェスに毎年参加するほどの音楽フリーク。
    音楽好きモデルとしてライブのレポートなどで活躍する傍ら、有名アーティストのMVにも続々と起用されている。

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