株式会社レコチョク(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:板橋 徹、以下、レコチョク)は、2023年7月13日(木)、レコチョクが展開する音楽配信サービス、ダウンロードランキング「レコチョク上半期ランキング2023」、サブスクランキング「TOWER RECORDS MUSIC 2023 上半期再生ランキング」「dヒッツ® powered by レコチョク(以下、dヒッツ)上半期ランキング2023」、計3つのランキング(15部門)を発表いたします(集計期間:2023年1月1日~2023年6月30日)。
複数の音楽配信サービスを通して見えてくる2023年上半期の音楽シーンを、音楽ジャーナリスト・柴 那典氏に読み解いていただきました。
【レコチョクが発表した「2023年上半期ランキング」から音楽シーンの“今”を解析する】
ヒットソングの現在地はどこにあるのか。流行歌はどのようにして生まれてくるのか。レコチョクが発表した「2023年上半期ランキング」からは、さまざまな楽曲が世を彩る百花繚乱の音楽シーンの今が見えてくる。変革期にあったここ数年の潮流を経て、ある種の“方程式”のようなものが見えてきた感もある。各ランキングから見えてくる今年の状況を読み解きたい。
■YOASOBI「アイドル」記録的ヒットの要因
まず、2023年上半期を代表する記録的なヒットとなっているのがYOASOBI「アイドル」だ。2023年4月に配信リリースされたこの曲は、ダウンロードランキングである「レコチョク上半期ランキング2023」シングルランキング部門で1位。サブスクでも「TOWER RECORDS MUSIC 2023 上半期再生ランキング」楽曲TOP10で1位、「dヒッツ上半期ランキング2023」楽曲再生回数ランキングでは2位と上位を席巻している。いまや“国民的ユニット”となったYOASOBIにとっても、さらなる代表曲となりつつある状況だ。
その背景には様々な要因がある。まずは、この曲がTVアニメ『【推しの子】』オープニング主題歌として書き下ろされた楽曲であるということ。4月12日(水)から放送がスタートしたアニメは回を重ねるごとに話題を呼び、放送開始同日にMV公開&配信スタートした「アイドル」も相乗効果で反響を集めていった。もちろん、ラップを意欲的に取り入れるなど新機軸の挑戦を見せた楽曲自体の魅力も大きい。「小説を音楽にするユニット」のYOASOBIだけに、「アイドル」は『【推しの子】』原作者のひとりである赤坂アカが書き下ろしたオリジナル小説『45510』を原作に制作された。それゆえアニメの世界観やビハインドストーリーと楽曲が深く結びついているのもポイントだ。
TikTokの影響も大きい。4月24日(月)にYOASOBIが行ったTikTok LIVEは最大同時接続者数12万人超、累計視聴63万人超となり、日本人アーティストによるライブパフォーマンスとしてはTikTok LIVEでの最高記録となった。UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)も広がりを見せ、「踊ってみた」や「歌ってみた」、切り抜きなど様々な動画でこの「アイドル」が使用された。曲調がめまぐるしく変わる楽曲ということもあり、サビだけでなく様々なパートを使った動画がグローバルで投稿されているのも特徴で、楽曲の人気は国境を超えて拡大中だ。
また、様々なバージョンが続けざまに公開されたこともこの曲の人気を押し上げた。5月26日(金)には英語版の「Idol」が公開。海外での認知を広げるきっかけになっただけでなく、まるで日本語のように聴こえる英語詞も話題を呼んだ。6月21日(水)には原作小説を掲載したポスター型ブックレット付属のCDをリリース。そして『【推しの子】』最終回が放送された6月28日(水)には、初の単独アリーナツアー「YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火”」からさいたまスーパーアリーナ公演で撮影されたライブバージョンのMVも公開された。
「アイドル」は、こうした様々な要因が絡み合うことで空前のヒットを記録している。今年を代表するヒットソングになることは間違いないだろう。なお、YOASOBIはアーティスト部門でも、「レコチョク上半期ランキング2023」「TOWER RECORDS MUSIC 2023 上半期再生ランキング」「dヒッツ上半期ランキング2023」全てにおいて1位を獲得している。
■アニメタイアップがヒットに寄与
レコチョク関連「上半期ランキング2023」の他の上位楽曲から見えてくるのも、アニメタイアップの強さだ。
「レコチョク上半期ランキング2023」シングルランキング部門2位のMAN WITH A MISSION×milet「絆ノ奇跡」、8位のmilet × MAN WITH A MISSION「コイコガレ」は共に『テレビアニメ「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編』の主題歌だ。LiSA「紅蓮華」やAimer「残響散歌」などこれまで年間を代表するヒットソングを生んできた「鬼滅の刃」の影響力は健在。ロックバンドMAN WITH A MISSIONと女性シンガーソングライターmiletという2組のアーティストを掛け合わせたコラボレーションの妙も楽曲の魅力に結びついた。
スケジュールも巧みだ。「絆ノ奇跡」は2月3日(金)に全国の映画館でスタートした上映イベント『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』で初公開、アニメの第1話放送終了後の4月10日(月)にサプライズ配信された。第2話が放送された4月17日(月)には「絆ノ奇跡」のMVが公開され、「コイコガレ」が配信スタート、4月24日(月)には「コイコガレ」のMVが公開、5月31日(水)に2曲を収録したCDが発売、6月2日(金)にはMAN WITH A MISSIONとmiletが人気YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」に出演し「絆ノ奇跡」を披露と、様々な関連動画も含めて話題性を提供し続けたこともヒットに寄与したはずだ。
テレビアニメだけでなく、アニメーション映画のタイアップ主題歌がヒットに結びついたのも2023年上半期の特徴だ。「レコチョク上半期ランキング2023」シングルランキング部門3位の10-FEET「第ゼロ感」は映画『THE FIRST SLAM DUNK』エンディング主題歌。映画は公開から半年で国内興行収入144億円を突破、ライブハウスやフェスを拠点にコアな支持を築き上げてきたロックバンドの10-FEETにとっても新たなファンを獲得する機会となった。また、12位のスピッツ「美しい鰭」は劇場版『名探偵コナン黒鉄の魚影(サブマリン)』主題歌。こちらも4月14日(金)の公開から約2ヶ月で興行収入131億円を突破しシリーズ最大のヒットとなっている。90年代から活躍するベテランアーティストのスピッツにとっても、若い世代に支持を広げるきっかけになったはずだ。
■タイアップ×複数タッチポイントの重要性
ドラマ主題歌もヒットしている。特に昨年に引き続くロングヒットとなっているのが、Official髭男dism「Subtitle」だ。サブスクでは、「dヒッツ上半期ランキング2023」楽曲再生回数ランキング1位、「TOWER RECORDS MUSIC 2023 上半期再生ランキング」では楽曲TOP 10、アーティストTOP 10共に2位となった。フジテレビ系木曜劇場『silent』主題歌として大きな話題を呼んだこの曲だが、単なる話題性にとどまらず、曲自体の魅力が多くの人を惹きつけていることがサブスクでの好調ぶりから伝わってくる。Official髭男dismは、この曲を「レコチョク上半期ランキング2023」シングルランキング部門で4位、TVアニメ『東京リベンジャーズ』聖夜決戦編オープニング主題歌の「ホワイトノイズ」を10位、TBS系金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』主題歌の「TATTOO」を11位と、TOP20に3曲をランクインさせている。ヒットメーカーとして絶好調の活躍ぶりだ。
今年放送のドラマ主題歌のヒットも目立った。「レコチョク上半期ランキング2023」シングルランキング部門5位は月9ドラマ『風間公親-教場0-』主題歌のUru「心得」、7位はテレビ朝日系ドラマ『星降る夜に』主題歌の由薫「星月夜」、9位はNHK 2023年度前期 連続テレビ小説「らんまん」主題歌のあいみょん「愛の花」と、今年上半期に放送された話題のドラマ主題歌が上位に並んでいる。また、今回より新設されたジャズ/クラシック部門のランキングでは、稲本 響「どうする家康 メインテーマ~暁の空~」が1位。大河ドラマのサウンドトラックとして人気を博している。
結果、「レコチョク上半期ランキング2023」シングルランキング部門TOP10のうち9曲がアニメ・映画・ドラマの主題歌となった。まさに2023年は、ミリオンヒットが続出した90年代〜00年代初頭に比肩する“タイアップ全盛期”ということができるだろう。ただ、かつてと今の情報環境が大きく異なるのは、地上波のテレビだけでなく、Netflixなどの動画配信サービス、TVerでの見逃し配信、YouTubeでの関連コンテンツなど、一つのコンテンツに様々なタッチポイントが用意されているということだ。人々の興味関心が多様化しているからこそ、マルチな導線を持ったコンテンツが話題性を生むようになっている。そして、主題歌がそのハブとして機能している。
また、「レコチョク上半期ランキング2023」シングルランキング部門14位となったTravis Japan「Moving Pieces」は今回より新設されたビデオクリップ部門で1位。同じく新設されたK-POP/ワールド・ミュージック部門1位はBTS「Take Two」となっている。SNSを通じて形成された確固たるファンダムがランキングを押し上げているという側面もある。
■BMSGファミリーの着実な人気拡大
そして、注目すべきはBE:FIRSTの存在だろう。「レコチョク上半期ランキング2023」シングルランキング部門6位の「Smile Again」は「ANESSA」のグローバルキャンペーンソングではあるが、TOP10において唯一アニメ・映画・ドラマの主題歌ではない形のヒットとなっている。
SKY-HIが代表取締役CEO をつとめる株式会社BMSGが送り出した7人組ダンス&ヴォーカルグループであるBE:FIRST。4月24日(月)に配信リリースされた「Smile Again」はシングルリード曲としては初のラブソングで、ピアノとストリングスによるアレンジで披露された「THE FIRST TAKE」での歌唱も反響を巻き起こした。BE:FIRSTは、サブスク「TOWER RECORDS MUSIC 2023 上半期再生ランキング」においてもアーティストTOP 10・楽曲TOP 10共にYOASOBI、Official髭男dismに次ぐ3位を記録。4月26日(水)にリリースされた3rd Single『Smile Again』は、バンドル購入により、「レコチョク上半期ランキング2023」アルバムランキング部門で1位を獲得している。結成からメジャーデビューを経て3年目を迎えた彼らが着実に人気を拡大していることが伺える。
さらに、「レコチョク上半期ランキング2023」新人アーティストランキング部門でもBMSGが送り出した新グループのMAZZELが1位となった。5月17日(水)にデビューシングル「Vivid」をリリースしたばかりの彼ら。この結果からは、BE:FIRSTをはじめ、SKY-HIとBMSGファミリーが日本、そしてグローバルな音楽シーンにおいてさらなる活躍の兆しも感じ取れる。
今回、ランキングの上位をリリース1年以内の新曲が占めていることにも着目すべきだろう。音楽シーンの“変革期”にあった2020年代初頭を経て、ヒットチャートは確実に活性化している。ランキングからは、そんなことを実感させられた。
▼レコチョク上半期ランキング2023 https://recochoku.jp/special/100959
▼TOWER RECORDS MUSIC 2023 上半期再生ランキング https://music.tower.jp/special/00010
▼dヒッツ上半期ランキング2023 https://dhits.docomo.ne.jp/ft/sys00441
柴 那典/しば・とものり
1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。ブログ「日々の音色とことば」
http://shiba710.hateblo.jp/ Twitter:@shiba710 /note : https://note.com/shiba710/
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