レコチョクでは、音楽を中心とした権利者の方々向けにECサイトが開設できるソリューション「murket」を提供しています。murketでは、CDやグッズといった従来のフィジカル商材はもちろん、音源などのデジタル商材やNFTが販売可能です。
最近ではNFT技術を活用した商品制作やプロモーションにも力を入れており、実際にヤングスキニーやPenthouseとの取り組みも実現。
今回はヤングスキニーさんやPenthouseさんとの取り組みも担当した営業の矢島に、企画の背景や狙いを語ってもらいました。
矢島匠
営業企画部 営業企画グループ
2021年に新卒として入社。「音楽業界に影響を与えるような仕事がしたい」という想いを持ち、入社時から営業として、レコード会社の方々の、アーティストや楽曲に対する想いや熱量をカタチにすべく、日々奮闘中。
目次
NFT技術を活用した来場者特典カード5000枚が即配布終了に
──矢島さんが担当している業務内容を教えてください。
レコチョクで提供しているECソリューション「murket」の営業として、主にJVCケンウッド・ビクターエンタテインメント(ビクター)さんのオンラインストア『VICTOR ONLINE STORE』を担当しています。フィジカル商品の販売促進や、NFTをはじめとするデジタル商品で新しい売り上げを作るためのアシストをすることが主な業務です。
国内のレコード会社さんの自社ストアでフィジカル商品とNFTを含むデジタル商品が両方販売できるのは現状『VICTOR ONLINE STORE』だけなので、その強みを活かしながら、レコード会社さんに貢献していけたらと思い、日々業務を行っています。
──2023年3月に開催されたヤングスキニーさんの代々木公園フリーライブで、来場者に「いつかの引換券付きチケットカード」を5000枚無料配布した取り組みについて教えてください。
これは『VICTOR ONLINE STORE』に実装されているNFT技術を活用したもので、「いつかの引換券付きチケット型カード」と称した来場記念カード5000枚を無料配布し、カードの裏面に記載してあるQRコードからNFTが取得できる仕組みになっています。
これはレコチョクとしても初の試みで、「NFTがどれだけ受け入れられるのか」「5000枚という数量は多すぎたのではないか」など不安要素も多かったのですが、当日はライブが始まる前に配り終えるほどの大反響でした。
10代から20代をメインターゲットにした商材は、当時あまり経験できてなかったので不安でしたが、受け取ってもらえてよかったです。
また、従来NFTは投資目的で脚光を浴びていた一面があるのですが、今回は完全にプロモーション目的。カードには全てメンバーの手書きで番号が振られていて、フィジカル観点でも世界で一枚しかないものになっているんです。それを無料で、今後も投機的な価値はつかないという立て付けで配布しましたが、5,000人という多くの方に受け取ってもらえたのはすごく嬉しかったです。
──「いつかの引換券付きチケット型カード」にはどのような特典がついているのでしょうか?
ライブの準備段階から、開催当日、そしてライブ後までを追ったドキュメンタリー映像が特典としてついています。さらに、NFT内にコンテンツを追加できる仕組みを活用して、前編はライブ当日から、後編はその1週間後から見られるようにしました。
従来の商品とは違い、1個の商品の中身が受け取った後にも更新されるという、NFTならではのギミックや魅力もお客様にお伝えできたのではないかと思います。
NFTを通して継続的にアーティストと接点を持てるということは、商品としても大きな価値があるのではないかと思います。
──お客さんからの反響はいかがでしたか?
NFTを取得したことよりも、特典のドキュメンタリー映像に対する反響が多かったのは、嬉しかったですね。
というのも、今回はあえてNFTという言葉を前面に出さなかったので、お客さんの中には「NFTを取得した」という認識を持っていない人も多くいると思います。でも、それで良いと思うんですよね。
サービスを提供する側は「どんな技術を使っているか」「どれだけすごいサービスなのか」を伝えたがってしまいがちですが、お客さん側からしたらどんな技術を使っていても関係ない。最終的に「何ができるか」で、「欲しい・欲しくない」を決めると思うので。
──「NFT」という言葉を出さないと決めたのには、どのような背景があるのでしょうか?
レコチョクとしてはNFTという新しい技術を活用した、新しい取り組みをしていることを伝えたい気持ちがあるんですけど、お客さん目線で考えると、まだまだNFTは馴染みがなくて手を出しにくいかなと。なので、お客さんにはドキュメンタリー映像が見られる商品と伝えて、NFT技術のことはプレスリリースで発信するという切り分けを行いました。
──ヤングスキニーさんは、その後にもNFTを配布していますね。
様々な都合でフリーライブに来られなかった方へのアフターフォローとして、ライブの1週間後に配布を行いました。
内容としては、サブスクで対象アルバムをライブラリに追加することでNFTをゲットできるキャンペーンです。こちらも想定を上回る方々に取得いただきました。
NFCとNFTを組み合わせた新しい音楽体験「ミニジャケキーホルダー」を企画・制作
──Penthouseさんとの取り組みでは、NFC×NFT商品も販売しています。
Penthouseさんとは、7月に新曲「夏に願いを」のリリースを記念して「ミニジャケキーホルダー」という商品を一緒に企画・制作させていただきました。これはNFC技術を搭載したCD風のキーホルダーで、スマホをかざしたら任意のサイトに繋がる仕組みになっています。繋がる先は、販売後であっても更新することができるので、“今届けたい・広めたいコンテンツ”を布教してもらうことが可能です。
▼「ミニジャケキーホルダー」仕組み紹介
──「ミニジャケキーホルダー」はどのように誕生したのでしょうか?
近年は配信リリースがどんどん増えて手軽に音楽を楽しめるようになった反面、手や心で作品や作り手の想いに触れることがかなり少なくなっていると感じます。そんな中で、ライトな音楽体験とフィジカルの所有体験を両立させたいという想いから、「ミニジャケキーホルダー」が誕生しました。
アイデアを思いついたときは「早く形にしなきゃ」と思って、急いで材料を買って自作でサンプルを作ったんです。ちょうどそのタイミングでPenthouseさんも楽曲を起点としたプロモーションをしたいという想いと、グッズ製造の目途が重なり、奇跡的に商品化が実現しました。
──商品化するにあたって、難しかったポイントは?
コンテンツに何を入れるかは、めちゃくちゃ悩みましたね。結果としては、スマホで読み取ってもらうからには「縦型で大きく動画やビジュアルが見られた方がいいよね」ということになり、まずはTikTokに飛ばせるようにしました。
──ファンの方からの反響はいかがでしたか?
ただ可愛い商品ではなく、アーティストの布教活動を促進するグッズにもなれる、という部分はかなり強く意識して制作していたので、その意図がファンの方にも伝わっていたのは嬉しかったですね。中にはご友人やご家族への布教分まで購入してくださる方もいました。
SNS全盛期の今、フォロワーじゃない人にアプローチするのってめちゃくちゃ難しいと思うんです。ミニジャケキーホルダーは、デジタル技術を活用しつつもアナログな口コミの手法でアーティストを広められるグッズとして、すごく良い商品になったのではないかと思います。
──アーティスト側とのやりとりで気をつけたポイントはありますか?
NFCとNFTを組み合わせた商品ですが、やはり「NFC」「NFT」という言葉自体がややこしいですよね。「NFTの内容はどうしますか?」と慣れてない言葉を言われても混乱してしまうと思うので、資料や口頭ではNFCは「グッズからの遷移先はどうしますか?」、NFTは「限定コンテンツの中身はどうしますか?」と分かりやすい言葉を使ってコミュニケーションを取ることは意識しました。
これはファンの方に向けた発信でも同じですね。NFTのことは「公式サポーター証明書」、NFCについては「スマホをかざしたらリンク先に繋がるよ」と伝えています。
──お客さんも普段見慣れないワードがあると、活用のハードルが上がってしまいますもんね。
そうなんですよね。特集ページも極力文字を減らしてアイコンなどを取り入れたことで、視覚的にわかりやすく伝えられたのではないかと。使い方動画も用意したので、「買ったけど使い方がわからない」という状況は避けられたのではないかなと思います。
──今後「ミニジャケキーホルダー」は他のアーティストでも活用いただきたいですね。
はい。今回Penthouseさんが新曲「夏に願いを」を配信リリースするタイミングで販売したように、他のアーティストさんも配信リリースのタイミングで販売できたらいいのではないか、と考えています。ただ、NFCキーホルダーは活躍の幅がある商品だと思うので、フィジカル商品とのセット販売など、これからどんどん横展開していけたらいいですね。
NFTでアーティストとファンが同じ時間軸で過ごせるようにしたい
──矢島さんが音楽業界で働く上で、最終的に実現したいことはどんなことでしょうか。
僕が実現したいのは、駆け出しのアーティストでも音楽だけで食べていけるような世界です。音楽に限らず、アートは社会や世界の変化を映す鏡だと思っています。つまり、アートが成長したら社会がアップデートされているということ。駆け出しのアーティストが爆発的に増えているという今の状況は、まさに時代が変わろうとしている真っ只中なのかな、と考えています。
どんなカタチやジャンル、クオリティであれ、想いを表現しているアーティストが増えることはとても素晴らしいこと。だからこそ、アーティストがきちんと食べていける世界を作りたいですよね。そのために、フィジカルやデジタルを横断的に活用して作り手の温度を感じる音楽を届けていくことが僕の役割なのではないかなと思っています。
──NFTはアーティストにとってどんな存在であるべきだと考えますか?
SNSを通じてアーティストとファンが簡単に繋がれようになった一方で、アーティストは不特定多数の人に情報を発信しているなと感じています。そんな状況下で、NFTはコアファンやライブ来場者だけといったように、特定の人と繋がれるコミュニケーションツールだと思っています。
ファンにとって、同じNFTを持っているということは、好きなものやこれまでの経験などに共通するものがあるということなんですよね。つまり心理的に近いファン同士のコミュニケーションが可能になります。
アーティストにとっても、特定のNFTをゲットしてくれたという形で絞り込まれたファンとコミュニケーションが取れるので、ファンに寄り添ったコンテンツや体験を提供しやすくなると思っています。NFTは、デジタルだけど温度を感じるコンテンツ商材であることが理想だなと思っています。
──では、今後アーティストとファンという関係性において、実現したい世界観を聞かせてください。
ファンの方が、アーティストと一緒に過ごす時間を長くできたらいいなと考えています。
アーティストとファンの時間軸って、かなりギャップがあると思うんです。例えば2ヶ月後にシングル曲をリリースするとなった場合、ファンの方はけっこう先のことのように感じますが、アーティスト側は作詞作曲編曲、レコーディング、ジャケ写作成、リリースの登録、告知などなど、大忙しなわけで。
アーティストが水面下で動いていることをファンの方はほとんど見えないから、ギャップが出てきてしまうと思うんですよね。NFTを通じて、今のファンや未来のファンのために人生をかけて音楽を届けているアーティストと、応援しているファンの方が同じ時間軸で過ごせる関係性を作り出せたらいいなと思っています。
文:伊藤美咲
写真:平野哲郎