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その昔、ラジオとテレビとカセット・レコーダーが合体したラテカセなる珍妙な商品が発売された時のこと。それを見てP-MODELの平沢進は「もはや人類の想像力は尽きた」と思ったそうだが、なるほど確かに音楽シーンに目を向けてみても、この日本で今デカい顔をしてのさばっているのは想像力の欠如した連中ばかりである。中身がカラッポなくせに自己主張をするロック・ミュージシャン。ヘヴィな恋愛やセックスの体験を歌うことが自分の内面をさらけだすことだと勘違いしている女性シンガー・ソングライター。自分の頭で考えることを放棄し、様式美(権威)に服従した音作りしかできないアーティスト。デリカシーのかけらもないそういった連中を見るにつけ、つくづく痛感してしまう。そういう状況の中で派手さとは無縁のリトル・テンポのようなインスト・ダブ・バンドがこうしてメジャー初アルバムを発表するというのは、実はすごいことなんじゃないだろうか、と。<br> 土生剛"TICO"のスティール・パン、佐々木育真のギター、HAKASEのキーボード、SEIJI"BIG BIRD"のベースを中心とするリトル・テンポの生演奏主体型清涼レゲエ/ダブ音響は、過剰な自己主張を押しつけたりは一切しない。窓から優しく吹き込んできた風が部屋の空気の流れを確実に変えてしまうように、どこか懐かしい情景を最小限の音が淡々と描き出していくだけである。DJクラッシュの音に流れているのが、日本人特有の"間の美学の血"だとするなら、"間"を大切に生かした彼らの繊細なサウンドの中を流れているのは"粋の美学の血"。そして同時にそこに80年代のウォーターメロン・グループに通じるクールなエキゾティシズムを感じてしまうのは、"粋の美学"が今の日本人にそれだけ程遠い存在(もっと言うなら、絶滅寸前の概念)であることの皮肉な証明でもあるのだ。日本をこれ以上ギスギスさせないためにも、本作を聴いてなごみつつ、一人でも多くの人に"粋の美学"を身につけてほしいなぁ、と切に思う。(CDジャーナル)
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