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『Mother Father Brother Sister』 から窺い知る日本音楽界における MISIAの功績

2019/01/02 18:00

『Mother Father Brother Sister』
から窺い知る日本音楽界における
MISIAの功績



邦楽名盤紹介、2019年の第一弾は昨年末の12月26日、13枚目となるオリジナルアルバム『Life is going on and on』を発表したばかりのMISIAを取り上げる。デビューシングル「つつみ込むように…」のヒットを受けて、デビューアルバムにしていきなりダブルミリオンを記録した『Mother Father Brother Sister』。発売から20年経った今聴いてみると、彼女の歌唱力が当時から抜きん出たものであったことはもちろん、1990年代後半の音楽シーンの状況やその中での彼女の立ち位置などにも思いを馳せることができる感慨深い作品であった。

祝、レコ大・最優秀歌唱賞受賞
2018年、MISIAが日本レコード大賞・最優秀歌唱賞を受賞した。20年目での初受賞である。5オクターブの音域を誇る圧倒的な歌唱力でデビューアルバムからいきなりミリオンセールスを記録。今もアリーナクラスの会場をソールドアウトさせることも何ら珍しくないアーティストだけに、個人的には遅かりし受賞である感が否めないが、“所謂お茶の間での露出を踏まえたら、まぁ、これくらいのタイミングとなるのかもしれないな”と思ったりもする。

とにかくMISIAのテレビ出演は極端に少ない。トーク番組などへの出演もほとんどないが、歌番組への出演も数えるほどである。ライヴの生中継を除けば、最初に歌番組へ出演したのはデビューから実に14年後。2012年の『NHK紅白歌合戦』だったというからちょっと驚きだ。『NHK紅白歌合戦』は3度出場しているが、そのうちのひとつである昨年の『NHK紅白歌合戦』にしても、2015年以来、3年振りだっだ。最優秀歌唱賞受賞ということで昨年12月30日、新国立劇場のステージから「逢いたくていま」と「アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)」を歌う姿が中継されたが、これが民放初ステージだったというのも不思議なくらいである。端からテレビ出演を考えていないタイプのロックアーティストは別にしても、同期/同世代でこれほどまでにテレビ露出のないシンガーは稀だろう。その昔、『ザ・ベストテン』への出演を拒否したシンガーのほうがよっぽどテレビで歌っていたような気がする(気がするだけで未調査)。

TVドラマの主題歌も数多く手掛けているので、テレビ媒体とまったく無縁というわけではないものの、彼女はほとんどテレビに依存することなく、そのポジションを確立してきたアーティストとは言える。そんなMISIAが一時期に比べて視聴率は低下したとは言え、いまだ年末の風物詩的テレビ番組でもある日本レコード大賞において最優秀歌唱賞を受賞したというのは、彼女のその確かな歌唱力が広くお茶の間へ周知した証拠でもあろう。三度目の出場となった昨年の『NHK紅白歌合戦』では、レコ大に続いて「アイノカタチ」と、サプライズでデビュー曲「つつみ込むように…」を歌ったが、それを司会の嵐・櫻井翔が「高校生の頃にフラッシュバックした」と語っていたのも象徴的。国民的グループのメンバーをしてそう言わしめるのだから、MISIAの歌とヴォーカリゼーションもまた国民的なものとなったと言ってもいいのではないかと思う。

R&Bを日本に根付かせた礎
さて、その「つつみ込むように…」も収録されているMISIAの1stアルバム『Mother Father Brother Sister』。改めて聴いてみると、かなり大衆を意識した作品のように思う。いや、大衆に支持されなければ売上が250万枚を超えるわけはないので、そりゃそうなのだろうけれども、彼女の音楽的バックボーンであるゴスペル、ソウルはもちろん、それをベースにしたコンテンポラリーR&Bにしても、本作が発売された1998年頃はまだメインストリームのものとは言い難かった。本作が発売された当時は第三次バンドブームの渦中であり、セールス上位を占めていたのはB'z、GLAY、L'Arc〜en〜Ciel、LUNA SEAらのロック勢。唯一ブラックミュージック寄りだったのは安室奈美恵だが、1997年の4thアルバム『Concentration 20』はロック、デジタル色が強いと言われている。コンテンポラリーR&Bが広く一般に入り込むのは1999年。言わずと知れた宇多田ヒカル『First Love』の特大ヒットによるところが大きく、クラブシーンはともかくとして、あの頃、そのジャンルを一般層に届けるにはまだハードルが高かった。いかにMISIAのポテンシャルが高く、シングル「つつみ込むように…」がヒットしていたとはいえ…だ。

今回『Mother Father Brother Sister』を聴いて感じたのはそこである。どうしたらスムーズにMISIAというアーティストの本質を一般層に届けることができるか。制作サイドがそこを丁寧に考えた様子が伝わってくるような作りであると思う。それが上手くいったからこそ本作はダブルミリオンを記録したのだろうし、そして、それがコンテンポラリーR&Bという音楽ジャンルを日本に根付かせる礎になったという見方は、あながち間違いではなかろう。

真摯な姿勢が垣間見える歌唱
M1「Never gonna cry! strings overture」はインスト。ストリングスのみの構成だが、サウンドはわりと激しめ。それでいてちゃんとポップというのは所謂オープニングSEとしての役割は十二分だろう。激しいピアノで始まるM2「K.I.T」へのつなぎとしてもばっちりだと思う。その「K.I.T」は如何にもクラブっぽいリズムで、硬めの音が当時っぽい。ビートを前に出すのが当時の主流だったというのは前述の通り。全体の聴き応えとしては、のちにシングル「FLYING EASY LOVING CRAZY」(2008年)でコラボレーションした久保田利伸の初期サウンドにも近い印象で、このファンキーさはわりと親しみやすかったのではなかろうか。何よりもインパクトがあるのはド頭の超ハイトーン。いきなり飛び出すので、彼女の声を期待していたリスナーには“待ってました!”だったろうし、1作品として客観的に見ると、この人がどんなシンガーであるのかをしっかりと示した作りではあると思う。言葉ではなく、声で所信表明したようでもある。M3「恋する季節」のイントロでのスキャットもそう。ヴォーカリストのアルバムであることがはっきりと分かる。また、この曲は2ndシングルのカップリング曲でもあるので、シングルでMISIAを知った人にも馴染みがいいのではなかったかと思われる。

そこから続く、M4「I'm over here 〜気づいて〜」がいい。スクラッチノイズが入ったサウンドは完全にクラブ仕様で(あれはアナログレコードで出したものではなく、電子音かもしれないが…)、若干ラップっぽいAメロでの歌唱、ソウルフルなコーラスを含めてわりと攻めに転じたようにも見える一方で、歌い方はとても丁寧な印象だ。語弊のある言い方かもしれないが、フェイクに逃げてないと言ったら分かってもらえるだろうか。もしかするとライヴではそういう歌い方をしているのかもしれないが、このテイクは言葉ひとつひとつをしっかりと伝えようとしているような歌唱である。クラブ系のサウンドに乗せて、独り善がりのヴォイスパフォーマンスをひけらかすような凡百のシンガーとは明らかに違う、彼女の真摯な姿勢が垣間見えるようで、今聴いても、とても好感が持てるところだ。

洋楽的な楽曲とルーツ音楽の露呈
M5「interlude #1」、M9「interlude #2」という文字通りのインタールードに挟まれたM6「Tell me」、M7「キスして抱きしめて」、M8「Cry」はいずれも洋楽チックだ。オフビートのリズムが特有のグルーブ感を生んでいるM6「Tell me」。2本のアコギのアンサンブルに同期が重なるM7「キスして抱きしめて」。決してテンポは速くないが、エレキのカッティングとベードラの刻みが楽曲にドライブ感を与えているM8「Cry」。サウンドのタイプは異なるものの、そのヴォーカルは英語的な響きがある。英語詞のあるM6「Tell me」とM8「Cry」は当然としても、全編ほぼ日本語詞のM7「キスして抱きしめて」にしてもメロディーへの言葉の乗せ方は和風ではない。極端に言えば、M4「I'm over here 〜気づいて〜」とは対極にある感じだ。M7「キスして抱きしめて」は本作で唯一MISIA自身が作曲したナンバーなので、彼女が好む歌い方は(少なくともデビュー時は…だが)こういうタイプなのかもしれない。興味深いと感じたのは、例の超ハイトーンヴォイスの扱い。M6「Tell me」のアウトロとM8「Cry」のサビでそれを確認できるのだが、前者のそれはフェードアウトする中で響き、後者はそれほど派手な絡みを見せない。さらに、M8「Cry」のアウトロのハミングではフェイクを利かせているのだが、これもフェードアウトしている。明らかに抑え気味なのだ。ゴスペルにしてもR&Bにしても何ら問題なく歌えるシンガーであることは示しつつも、それに特化しすぎないことも表しているようでもある。

波打ち際の音から始まるM10「小さな恋」は、かわいらしいメロディーを持つナンバーだが、本格的なコーラスワークにソウルを感じさせる佳曲。《だって チク チク チク 心が痛みだす様で》や《だって ポロ ポロ ポロ 涙がこぼれそうで》などリズミカルな歌詞もポップさを助長している。M11「陽のあたる場所」はさすがに2ndシングルとなるだけのキャッチーなサビメロを擁しているが、全体としては実にソウルテイストあふれる楽曲と言える。ワウワウとしたギター。抑制を効かせつつもしっかりと楽曲を支えるブラスとオルガン。何よりもその声量を示すヴォーカリゼーションはリミッターを解除したようでもある。そう、このアルバムはこの辺りからルーツミュージックを隠さなくなってくるのである。本領発揮という言い方は少しおかしいかもしれないが、ニュアンスとしてはそれに近い。ストリングス、ピアノ、ブラスを配したM12「星の降る丘」は、のちの大ヒット曲「Everything」にも通じるような壮大なタイプのバラードだが、この歌も断然ソウルフル。レンジの広さを示すサビの後半や大サビの歌唱は、さすがとしか言いようがない素晴らしさだ。

聴く者の気持ちを昂ぶらせる終盤の流れ
そして、本作はM13「つつみ込むように…(DAVE“EQ3”DUB MIX)」へと辿り着くのだが、この流れは完璧と言っていいと思う。イントロで例の超ハイトーンが聴こえてくると、気持ちの高ぶりを抑えられない。ガンアガりである。ほとんどエクスタシー状態を生み出すと言っていい。シングル曲はアルバムの2曲目に置くのが定番であって、アルバムの曲順をパッと見た時、“ヒットシングルをなぜこの位置に…?”との思いがチラリと頭をよぎったものだが、これはこれが大正解。120点と言っていい模範解答であろう。中盤のM6「Tell me」とM8「Cry」とで超ハイトーンヴォイスが抑え気味だったのは、もしかするとここで開放感を得るためだったのではないかと思うほどで、(実際のそういう意図があったかどうかは定かではないが)完全に脱帽である。ここに収録されているのはアナログ盤のリミックスということだが、CDシングルよりもサウンドは比較的おとなしめというか、過度なリミックスはされていない様子。わずかではあるがヴォーカルが前に出ているようなバージョンであることから、制作サイドの意思を感じさせるところでもある。

バックボーンの明確な露呈
M12「星の降る丘」~M13「つつみ込むように…(DAVE“EQ3”DUB MIX)」には大団円感もあって、ここでアルバムがフィナーレとなっても何ら問題はないだろうが、そこからM14「Never gonna cry!」というシングル「つつみ込むように…」のカップリング曲に持っていくというのも結構面白い。M1が同曲のインストなので循環構造になっているというのもそうだが、注目はシークレットトラックとして別バージョンである「Never gonna cry! (JUNIOR VASQUEZ REMIX RADIO EDITION)」が隠されているところだ。もともとモータウン風のナンバーであり──誤解を恐れずに言えば、The Jackson 5風のポップチューンで、彼女自身のバックボーンを露呈していると思われる「Never gonna cry!」なのだが、シークレットである“JUNIOR VASQUEZ REMIX RADIO EDITION”ではさらに赤裸々に自らのルーツを取り込んでいる。パーカッシブなリズムと地声を強調したコーラスワーク。MISIAが幼い頃から親しんでいたというゴスペルがかなり本格的にフィーチャーされているのだ。シークレットトラックゆえにマニアックと言えばマニアックなアレンジもできたのは間違いなかろうが、アルバムの最後の最後に来て、かなり濃い音楽性を見せつけている。

冒頭で、『Mother Father Brother Sister』はかなり大衆を意識した作品のように思うと述べたのはこういうところにもある。ポップでビートの効いたアルバム前半では、ヴォーカリストの作品であることを示しつつも、丁寧に歌唱した楽曲を置く。間口を広く取ったイメージだ。そこから入って、中盤は洋楽的なナンバーを並べつつも、ヴォーカリゼーションは過度に強調せず、後半でそれを一気に解放。そして、最後にMISIAというアーティストの背景と土台を躊躇なく晒す。ライトユーザーも聴きやすく、それでいてそこだけに阿ることなく、シンガーとしての本質はもちろんのこと、自らの音楽性もしっかりと打ち出す。さらに言えば、オープニングから聴いていくと、(変な言い方だけど)それが自然と身に付くような構成だ。よくデビューアルバムはよくそのアーティストを紹介する名刺代わりと言われるが、『Mother Father Brother Sister』はMISIAを紹介するにおいて、この上なく優れた名刺代わりであった。
TEXT:帆苅智之

アルバム『Mother Father Brother Sister』

1998年発表作品



<収録曲>
1.Never gonna cry! strings overture
2.K.I.T
3.恋する季節
4.I'm over here 〜気づいて〜
5.interlude #1
6.Tell me
7.キスして抱きしめて
8.Cry
9.interlude #2
10.小さな恋
11.陽のあたる場所
12.星の降る丘
13.つつみ込むように…
14.Never gonna cry!
15.Never gonna cry! (JUNIOR VASQUEZ REMIX RADIO EDITION)


ニュース提供:OKMusic

 

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アーティスト情報

プロフィール

長崎県出身。その小さな体から発する5オクターブの音域を誇る圧倒的な歌唱力を持ち、「Queen of Soul」と呼ばれる日本を代表する女性歌手。

1998年のデビュー曲「つつみ込むように…」は日本の音楽シーンに強い影響を与え、ジャパニーズR&Bの先駆者と言われる。その後発表された1stアルバム「Mother Father Brother Sister」は新人ながら、300万枚の異例のセールスを記録。

以降、「Everything」「逢いたくていま」等、R&Bというジャンルにとらわれず、バラードの女王の名も確立された。その実力は日本国内のみならず、アジアひいては世界からも認められる。

デビュー19年目を迎えてなお、年々音楽に対する追求心はとどまることを知らず、世界を舞台に様々な作品を発表。来年のデビュー20周年に向けて、さらなる期待が高まる。また、音楽活動のみならず社会貢献活動にも注力し、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)名誉大使などを歴任。

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